血液プロテオームからのアルツハイマー病のAT(N)病理予測

Zhang Y et al. Front Aging Neurosci. 2022 Nov 29:14:1040001. doi: 10.3389/fnagi.2022.1040001.

研究の背景と目的 

アルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)は、発症や進行の背景にある脳内病理を、AT(N)という枠組みで整理して考えることがあります。AT(N)は、ADに特徴的な変化を3つに分けた呼び方です。 

  • A(Amyloid):Aβの蓄積 
  • T(Tau):リン酸化タウ(phosphorylated tau:p-tau)の増加(タウ病理) 
  • (N)(Neurodegeneration):神経細胞の障害・変性(神経変性) 

研究や診断では、これらを反映する指標として、主に脳脊髄液(cerebrospinal fluid:CSF)などから得られるAβ、p-tau、総タウ(total tau:t-tau)が用いられます。一般に、Aβは「A」、p-tauは「T」、t-tauは神経障害の度合いとして「(N)」に関連する指標として扱われ、これらを組み合わせたものがAT(N)の状態(AT(N) profile / AT(N) status)です。 

ただしCSF検査やPET(positron emission tomography)は負担や設備面の制約があるため、より簡便な血液ベースのバイオマーカーが求められています。そこで本研究は、血液(血漿)の多数タンパク質データを使い、CSFやPETなどで定義したAβ、p-tau、t-tau、そしてAT(N)の状態(高い/低い)を、ニューラルネット(neural networks:NNs)でどこまで予測できるかを検証することを目的としました。 

研究方法 

対象はEMIF-AD MBD(European Medical Information Framework for Alzheimer’s Disease – Multimodal Biomarker Discovery)に参加した881人です。EMIFは欧州で既存の医療データ再利用を促す枠組みで、EMIF-ADは欧州各地の既存コホートを統合した研究です。本解析は10施設由来のサブコホートから、血漿サンプルがある人のみを組み入れました(認知正常:cognitively normal:CN 311、軽度認知障害:mild cognitive impairment:MCI 386、AD 184)。 

血漿中3,635タンパク質をSomaScan™ Assayで測定し、年齢とAPOE(apolipoprotein E)遺伝子型(リスクとして知られるε4保有の有無)も用いました。まず、各アウトカム(Aβ、p-tau、t-tau、AT(N)の「高い/低い」)を目的変数として、各タンパク質との関連をロジスティック回帰で評価し、結果に基づいてタンパク質を順位付けしたうえで上位100タンパク質を候補として選びました。次に、これらのタンパク質(必要に応じて年齢・APOEも含む)を入力としてニューラルネット(neural network:NN)で「高い/低い」を判別し、ROC(receiver operating characteristic)曲線のAUC(area under the curve)で性能を評価しました。AUCは、入力情報を①年齢+APOEのみ、②タンパク質のみ、③年齢+APOE+タンパク質の3条件に分けて比較し、タンパク質情報の追加による予測精度の改善を確認しました。さらに、選ばれたタンパク質がどんな生物学的まとまり(経路・相互作用)を示すかを理解するため、経路解析とタンパク質間相互作用解析を行いました。 

結果 

年齢+APOEのみでも一定の判別ができ、AUCはAβ 0.748、p-tau 0.662、t-tau 0.710、AT(N) 0.795でした。タンパク質のみではAβ 0.727、p-tau 0.626、t-tau 0.668、AT(N) 0.770でした。 

一方、年齢+APOEにタンパク質を加えると一貫して改善し、AUCはAβ 0.782、p-tau 0.674、t-tau 0.734、AT(N) 0.831となりました。つまり、採血で得た多数タンパク質情報が、既知の強い要因(年齢・APOE)に“上乗せ”の情報を与えました。 

また、AT(N)が極端に異なる群(A+T+N+とA−T−N−)の判別でも、年齢+APOE(AUC 0.795)やタンパク質のみ(0.770)より、両者を組み合わせたモデル(0.831)が高性能でした。抽出タンパク質群は、免疫・炎症や細胞内シグナル(例:PI3K-Aktなど)に関わるまとまりが示唆されました。 

考察 

血漿タンパク質を加えることで、AT(N)関連指標の推定精度が年齢・APOEのみより改善しました。採血ベースで病理を推定する足がかりとして有望ですが、性能は中等度で、別集団での再現性確認や、実運用を見据えた少数タンパク質パネルへの絞り込みが今後の課題です。 

Information

本研究でSomaScan™ Assayは、血漿から3,635タンパク質を一括定量する“網羅測定基盤”として中核を担いました。多数の候補を同時に測れるため、NNが活用できる入力特徴量を確保でき、AT(N)予測に効くタンパク質パネル探索と、その生物学的解釈(経路・相互作用解析)まで一連で進められた点が有用です。 

COI:開示すべき利益相反はありません。 

Success

探索、バイオマーカーから臨床試験まで、SomaScan Assayの活用事例をまとめました。