水のみの長期断食に伴う炎症や血小板活性化のリスク
Commissati S et al. Mol Metab. 2025 Jun:96:102152. doi: 10.1016/j.molmet.2025.102152.

研究の背景と目的
4日以上エネルギー摂取を断つ長期断食は、体重減少や代謝の改善などが期待される一方で、炎症や心血管リスクに関わる変化が起こり得るのかは十分に整理されていません。これまでの研究は、CRPなど少数の検査項目に基づく評価が中心で、断食中に体内で起こる反応を「多数の血中タンパク質」を同時に測り、全体像として捉える試みは多くありません。血中タンパク質は臓器の状態を直接見るものではないものの、全身の変化を幅広く見渡す手がかりになります。そこで本研究は、水分摂取のみの断食と回復食の前後で、SomaScan™ Assayによる網羅的な血漿タンパク質測定を行い、代謝・炎症・血液凝固などの反応を包括的にプロファイル化することを目的としました。
研究方法
中年ボランティア20人(平均52.2歳、女性11人・男性9人、平均BMI 28.8)を対象に、医療管理下で平均9.8日間の水分摂取のみの断食を実施し、その後、植物性中心の食事による平均5.3日間の段階的な回復食を行いました。主な比較は「断食前(ベースライン)」「断食終了時」「回復食終了時」の3時点で、血液・尿を採取(概ね朝6〜8時、日内変動を抑える目的)して変化を追跡しました。血漿タンパク質はSomaScan Assayで1,317種を測定し、どのタンパク質群・経路が断食で変化し、回復食で戻るか(または残るか)を評価しました。主要所見はELISAやターゲット質量分析でも確認しました。さらに外部データとして、7日間の水分摂取のみの断食を行った独立コホート(12人、別プラットフォームのプロテオミクス)との比較、および修正版の断食を受けた1,422人の後ろ向きコホートで炎症指標(CRP)の再現性を検討しました。
結果
断食により平均7.7%の体重減少がみられ、ケトン体(BHB:β-hydroxybutyrate)の上昇で断食の実施が確認されました。SomaScan Assayでは、断食終了時に全体の6.6%(86/1,317)のタンパク質が有意に変化し、回復食後まで残った変化は12種(1%未満)で、多くは一過性でした。
有益な変化として、筋肉・骨の調節に関わるタンパク質(INHBA:inhibin subunit beta A、ミオスタチン、GDF11/8など)が低下し、栄養不足でも筋や骨を守る方向の反応が示唆されました。脂質代謝を進めるPPARαシグナルや、細胞内の掃除に関わるリソソーム機能の活性化も示されました。さらに、血中アミロイドβ(Ab40/Ab42)は断食中に低下しましたが、臨床で重視されるAb42/Ab40比は変わりませんでした。
一方、炎症に関して、hsCRPが129%上昇し、ヘプシジン、ミドカイン、IL-8なども増加しました。後ろ向き解析の別コホート1,422人でもCRP上昇(2.8→4.3 mg/L)が確認されました。加えて補体・凝固系や血小板脱顆粒(活性化)の指標が上がり、尿中11-dehydro-TXB2も増加しました。脂質(LDLなど)は断食中に上がり回復食で戻る傾向でしたが、中性脂肪は回復食後に上昇しました。
考察
水のみの長期断食は、代謝適応や一部の“保護的”変化と同時に、炎症反応と血小板活性化を引き起こす可能性が示されました。多くのタンパク質変化は回復食で戻る一方、心血管リスクに関わる経路も動くため、体質や基礎疾患に応じた医療管理と長期影響の検証が重要です。
COI:開示すべき利益相反はありません。


