遺伝性血管性浮腫患者におけるカリクレイン阻害薬と血漿タンパク質変化
Sexton D et al. Front Immunol. 2025 May 9:15:1471168. doi: 10.3389/fimmu.2024.1471168.

研究の背景と目的
遺伝性血管性浮腫(HAE-C1INH:Hereditary angioedema due to C1 inhibitor deficiency)は、C1インヒビター(C1-INH)欠損によりブラジキニンが過剰になり、腫れ発作を起こす病気です。診断にはC1-INHやC4が使われますが、病態の理解や治療効果の把握に役立つ新しい血中指標も求められています。本研究は、血漿中でブラジキニン産生を促すタンパク質分解酵素カリクレインの特異的阻害薬であるラナデルマブが、血漿中の多数タンパク質に与える影響を広く調べることを目的としました。
研究方法
患者群と同程度の年齢層・男女比になるように選定した健常者(30名)と、HAE-C1INH患者におけるラナデルマブ投与前(125名)および投与開始26週後(112名、300mgを2週ごと)の血漿を比較しました(投与前後で同一患者のペア解析)。血漿検体はHELP試験※(およびオープンラベル延長)で採取・保管されたものを用いました。採血は凝固・カリクレイン-キニン系(KKS)の人工的な活性化を抑える手順で実施し、SomaScan™ Assayにより7,000種超のタンパク質の相対量を測定しました。健常者と治療前で差があり、治療後に差が消失したタンパク質(120種)を中心に、パスウェイ解析(MetaCore)およびネットワーク解析(CASNET)で解釈し、一部は別手法(ウエスタンブロット、ELISAなど)とも照合しました。
※HELP試験:HELP(Hereditary Angioedema Long‑term Prophylaxis)試験は、HAE-C1INH患者を対象にラナデルマブの有効性・安全性を評価した第III相多施設ランダム化(二重盲検)プラセボ対照試験(主要治療期間26週)で、継続試験としてオープンラベル延長が実施された(NCT02586805、NCT02741596)。
結果
健常者と比べ、ラナデルマブ投与前患者ではC1-INHとC4が低下しており、既知の診断指標がSomaScan Assayでも再現されました。さらに、KKSの過剰活性を反映する切断高分子キニノゲン(HKa)が上昇しており、ラナデルマブ投与開始26週後にはHKaが低下して健常者に近づきました。HKaのSomaScan Assayシグナルは、HELP試験で行われたウエスタンブロット由来の%HKaとも相関し、薬の作用(薬力学的指標)を捉えうることが示されました。
血漿中の7,000種超のタンパク質を網羅的に比較したところ、健常者とラナデルマブ投与前患者の間で1,041タンパク質が有意に異なっていました。そのうち120タンパク質は、投与開始26週後に「健常者との差が見られない」状態まで戻っており、特異的なカリクレイン阻害が病態関連のタンパク質変化を部分的に正常化する可能性が示唆されました。120タンパク質には、HKaのほか、凝固に関わる因子(例:トロンビン)、補体系や脂質関連(例:アポリポ蛋白B)、プロテアーゼ阻害(例:α2-マクログロブリン)などが含まれました。
パスウェイ解析では、KKSが最も強く関与し、加えて血液凝固、細胞接着、結合組織分解などの経路が示されました。C3の切断断片が治療前に増え治療後に低下する所見もあり、KKSと補体系のつながりも示唆されています。
考察
SomaScan Assayを用いた解析により、HAE-C1INHにおける既知の低C4・低C1-INHに加え、HKa上昇などKKS活性化の全体像を広く捉えました。さらに健常者と乖離が見られた一部タンパク質について、ラナデルマブ投与により健常者の分布に近づくことが認められました。これは血漿カリクレイン抑制による下流変化を反映し、薬理作用の裏づけや治療効果指標(バイオマーカー)候補の抽出に役立つ可能性を示唆します。
COI:開示すべき利益相反はありません。


