血中ANGPTL3に着目した進行胃がん抗PD1療法の効果予測研究
Kudo-Saito C et al. Cancer Res Commun. 2026 Feb;6(2):350-358. doi: 10.1158/2767-9764.CRC-25-0793.

研究の背景と目的
抗PD1/PDL1療法は、がん治療に大きな進歩をもたらした免疫チェックポイント阻害療法です。一方で、すべての患者に効果が出るわけではなく、進行胃がんでは治療効果が得られる患者さんが限られることが課題です。そのため、治療前に「効果が期待できる患者さん」と「効果が出にくい患者さん」を見分けるバイオマーカーの探索が重要になっています。
本研究では、抗PD1抗体であるニボルマブ単剤治療を受けた進行胃がん患者の血漿を用いて、血中タンパク質を網羅的に調べました。目的は、治療効果や予後と関連する分子を見つけ、さらにその分子を治療標的として活用できる可能性を検討することです。
研究方法
対象は、ニボルマブ単剤治療を受けた進行胃がん患者91例です。治療前と治療開始後約1か月の末梢血から血漿を分離し、SomaScanTM Assay v4.1を用いて、7,288種類のヒトタンパク質を測定しました。SomaScan Assayは、タンパク質に結合するアプタマーを利用して、多数のタンパク質を同時に測定するプロテオミクス技術です。
また、候補として見つかったANGPTL3については、ELISAでも血漿中濃度を測定しました。さらに、患者データから見つかったANGPTL3の意義を検証するため、マウス腫瘍モデルを用い、抗ANGPTL3抗体、抗PD1抗体、および両者の併用による抗腫瘍効果を調べました。
結果
SomaScan Assayによる血漿プロテオーム解析の結果、治療前および治療後のいずれの時点でも、病勢進行を示した患者さんで高くなっている14種類のタンパク質が見つかりました。その中でも特に注目されたのが、angiopoietin-like 3(ANGPTL3)です。ANGPTL3は主に脂質代謝に関わるタンパク質として知られており、血中の脂質の調整に関係します。本研究では、このANGPTL3が、ニボルマブ治療の効果が乏しい患者で高い傾向を示しました。
治療前のANGPTL3が高い患者では、病気が進行するまでの期間である無増悪生存期間、そして全生存期間のいずれも短い結果でした。たとえば、SomaScan Assayで測定されたANGPTL3の2つの測定項目では、ANGPTL3高値群の無増悪生存期間中央値は約1.2〜1.4か月、低値群では約2か月でした。全生存期間中央値も、高値群では約4.5〜4.6か月、低値群では約9か月と差がみられました。ELISAで測定したANGPTL3でも同様に、高値群では全生存期間が短い傾向が確認されました。
治療後1か月のANGPTL3についても、SomaScan Assayで高値を示した患者では、無増悪生存期間および全生存期間が短い結果でした。特に一方のANGPTL3測定項目では、低値群の全生存期間中央値が12.4か月であったのに対し、高値群では4.2か月でした。これは、治療開始後の血中タンパク質の状態も、治療反応性や予後を反映している可能性を示しています。
さらに、マウス腫瘍モデルを用いた検証では、ANGPTL3を阻害する抗体単独でも腫瘍増殖を抑える効果がみられました。加えて、抗ANGPTL3抗体と抗PD1抗体を組み合わせると、それぞれの単独治療よりも強い抗腫瘍効果が確認されました。一部のマウスでは腫瘍が消失し、同じ腫瘍細胞を再び移植しても腫瘍が定着しませんでした。これは、免疫が腫瘍を記憶し、再発を抑えるような反応が誘導された可能性を示します。
免疫細胞の解析では、併用療法により、腫瘍内にT細胞、NK細胞、樹状細胞などの抗腫瘍免疫に関わる細胞が増えていました。これらの結果から、ANGPTL3は単なる予後マーカーにとどまらず、抗PD1療法の効果を高めるための治療標的となる可能性が示されました。
考察
本研究は、血中ANGPTL3が高い進行胃がん患者では、ニボルマブ単剤治療の効果が得られにくく、予後も不良である可能性を示しました。さらに、ANGPTL3を阻害すると抗PD1療法の効果が高まる可能性も、マウスモデルで示されています。ただし、単群試験であるため、ANGPTL3が抗PD1療法に特異的な抵抗性マーカーなのか、進行胃がん全般の予後不良因子なのかは、今後さらに検証が必要です。
COI:開示すべき利益相反はありません。

