硝子体網膜リンパ腫の分子特性を捉える大規模プロテオーム解析
Funatsu J et al. Ophthalmol Sci. 2026 Jul 6;6(9):101317. doi: 10.1016/j.xops.2026.101317.

研究の背景と目的
硝子体網膜リンパ腫(VRL)は、眼内に生じるまれで悪性度の高いリンパ腫で、多くはびまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL)に分類されます。診断には硝子体細胞診やサイトカイン測定などが用いられますが、採取できる検体量や細胞数が限られることなどから、病態をより広く分子レベルで捉える方法が求められています。
本研究では、VRL患者の硝子体液を網羅的にプロテオーム解析し、VRLで特徴的に変化するタンパク質や生物学的経路を明らかにするとともに、DLBCLで知られる分子学的特徴が眼内環境にも反映されているかを検討しました。
研究方法
VRL患者11例11眼と、非炎症性対照として黄斑円孔患者4例4眼を対象とした横断的観察研究です。手術時に採取した未希釈硝子体液0.5~1.0 mLの保存検体を用い、SomaScanTM 7K Assayにより6,981種類のタンパク質を測定しました。
得られたデータからVRL群と対照群で量の異なるタンパク質を抽出し、Gene Ontology、Reactome、GSEAなどを用いて、それらが関係する生物学的機能や経路を解析しました。
結果
VRL群と対照群の比較では、あらかじめ設定した基準を満たす2,499種類のタンパク質に差が認められ、そのうち2,440種類がVRL群で増加、59種類が減少していました。また、タンパク質全体のパターンを解析すると、VRL群と対照群は明確に異なるプロテオームプロファイルを示しました。
VRL群で増加したタンパク質には、ヒストンH3・H4、RUNX1、HDAC1、PRMT1などが含まれていました。さらに複数の経路解析を行った結果、クロマチン構造、DNAメチル化、PRC2を介したヒストン修飾、ヒストン脱アセチル化、細胞周期に関連する転写制御など、核内・クロマチン・エピジェネティック制御に関連する経路のタンパク質が一貫して多く認められました。
一方、VRL群で減少したタンパク質は、細胞外マトリックス、細胞外小胞に関連する構成要素、血小板関連過程、増殖因子シグナルなどの経路に多く認められました。これらの結果から、VRLでは単一の炎症性分子だけが変化するのではなく、眼内環境全体に広範な分子変化が生じていることが示唆されました。
考察
VRLの硝子体液では、DLBCLでも知られているクロマチンやエピジェネティック制御に関連する分子経路の特徴が、プロテオームレベルでも認められました。同時に、細胞外環境に関わる経路の低下もみられ、腫瘍に伴う眼内微小環境の再構築が示唆されます。ただし、本研究ではDNAメチル化やクロマチン状態そのものを直接測定していないため、エピジェネティックな機能変化を直接証明した結果ではありません。
COI:データ解析の一部にフォーネスライフ社の社員が関与しています。



