【レビュー】Whole-body AgeからOrgan Age、Cell Ageへ進むプロテオミクス老化研究

生物学的年齢は一つではない
加齢は全身で均一に進行する現象ではありません。実年齢が同じ個人間でも、疾患リスク、身体機能、認知機能、各臓器の機能状態には大きな差が存在します。また、同一個人の中でも、脳、心血管系、腎臓、筋骨格系などが必ずしも同じ速度で変化するとは限りません。
こうした個人差を定量化する概念として、chronological ageとは異なる「biological age」が研究されてきました。近年ではその対象が、個体全体を一つの年齢として表すWhole-body biological ageから、Organ-specific age、さらにCell-type-specific ageへと細分化されつつあります。
この展開を支えている技術の一つがhigh-plex plasma proteomicsです。本稿では、SomaScanTM Assayを中心とするproteomic aging研究の流れを整理するとともに、epigenetic clockやOlinkを用いた研究との比較から、proteome coverageがOrgan Age / Cell Age研究において持つ意味を考察します。
Plasma proteomeから推定するWhole-body biological age
Plasma proteomeと加齢の関係を示した代表的研究の一つが、Lehallierらによる2019年のNature Medicine報告です。SomaScan Assayを用いて多数の血漿タンパク質を解析した結果、加齢に伴うproteomic changeは単調な線形変化ではなく、特定の年代に大きな変化が集中する非線形なパターンを示すことが報告されました。
この研究は、血漿proteomeに加齢に関する広範な生物学的情報が含まれることを示した点で、その後のproteomic aging clock研究の基盤となりました。
2020年にはSathyanらがSomaScan Assay 4Kを用いてproteomic age modelを構築しました。多数のage-associated proteinsからchronological ageを予測し、予測年齢と実年齢との差であるproteomic age gapが健康状態や死亡リスクと関連することを示しました。
これらは、proteome全体から個体レベルのbiological ageを推定するWhole-body proteomic ageとして位置づけられます。
Whole-body AgeからOrgan Ageへ
次の重要な展開が、Ohらによる2023年のNature論文 “Organ aging signatures in the plasma proteome track health and disease” です。この研究では、GTExなどの組織発現情報を利用して、特定の臓器で相対的に高く発現するorgan-enriched proteinsを定義し、それぞれの臓器についてage prediction modelを構築しました。対象となったのはBrain、Heart、Artery、Liver、Kidney、Lung、Muscle、Pancreas、Intestine、Adipose、Immune systemの11臓器・システムです。
SomaScan Assayで測定された約5,000 proteinsのうち約893 proteinsがorgan-enriched proteinとして分類されました。解析では、約20%の個人が少なくとも一つの臓器についてextreme agingを示し、約1.7%では複数臓器にaccelerated agingが認められました。また、各organ age gapは対応する臓器疾患や死亡リスクとの関連を示しました。
ここで注意すべきなのは、Organ Ageが臓器そのものの「真の年齢」を直接測定しているわけではない点です。
より正確には、
plasma中のorgan-enriched proteinsから推定した
organ-specific biological aging signature
と理解するのが適切です。
それでも、一つの血液検体から複数臓器について異なるaging patternを推定できる可能性が示されたことは、biological age研究における重要な概念的拡張でした。
Cross-platform validationによって強化されたOrgan Ageという概念
Organ AgeはSomaScan Assayに固有の解析概念ではありません。
2025年、OhらはOlink Explore 3072で測定されたUK Biobank 44,498人のデータを用いて、11臓器のorgan aging modelを大規模prospective cohortで検証しました。
その結果、accelerated organ agingは将来の疾患発症や死亡と関連し、とくにBrain AgeはAlzheimer病との強い関連を示しました。Extremely aged brainではAlzheimer病リスクが上昇し、extremely youthful brainではリスク低下が認められました。また、accelerated agingを示す臓器数が多いほど死亡リスクが高くなる傾向も示されました。
さらに、Olinkを用いた別の大規模研究でもorgan-specific proteomic aging clocksが構築され、複数populationで外部検証が行われています。
これらは、Organ Ageが特定platform固有のシグナルではなく、異なるproteomics technologyやpopulationでも再現可能な生物学的現象であることを支持しています。
SomaScan Assayを用いた研究もlongitudinal / prospective analysisへ展開しています。CHARIOT PROではorgan-specific ageとその後の認知機能変化との関連が検討され、2026年の解析では、globalおよびorgan-specific age gapと死亡、心血管疾患、認知症、癌などとの長期的関連が報告されました。
とくにlung ageとlung cancer、kidney ageとkidney cancerなど、対応臓器のage gapと疾患リスクとの関連は、Organ Ageの生物学的妥当性を検討するうえで興味深い所見です。
Organ AgeからCell Ageへ
2026年、DingらはNature Medicineにおいて “Plasma proteomic signatures of cellular aging predict human disease” を報告し、Organ Ageの考え方をcell typeレベルへ拡張しました。
この研究ではHuman Protein Atlasなどのsingle-cell transcriptomic dataを利用し、特定のcell typeに比較的特異的に発現する遺伝子を同定したうえで、それらに対応するplasma proteinsを用いてcell-type-specific aging modelを構築しています。
SomaScan Assayでは7,289 proteinsのうち約1,202 proteins、Olinkでは2,923 proteinsのうち約708 proteinsがcell-type-specific proteinとして解析対象となりました。
神経系、glia、immune、epithelial、musculoskeletalなど40種類以上のcell typeについてaging signatureが評価され、代表的にはastrocyte agingとAlzheimer病、skeletal myocyte agingとALS、respiratory epithelial agingとlung cancerとの関連が示されました。また、APOE genotypeと特定cell typeのaging signatureとの関連も報告されています。
この研究により、解析単位は
Whole body → Organ → Cell type
へと拡張されました。
例えば「Brain Ageが高い」という所見を、さらにastrocyte、neuron、microgliaなどのcellular componentへ分解して検討できる可能性が示されたことになります。
Biological resolutionを規定するproteome coverage
Organ Age / Cell Age研究を考えるうえで重要なのがproteome coverageです。ただし、これは単純に「測定protein数が多いほどモデル性能が高い」という意味ではありません。
重要なのは、
生物学的な解析単位を細分化するほど、
その単位に特異的なprotein featuresの数が減少する
という点です。
Whole-body age modelであれば、全身の加齢に関連する多数のproteinsを候補として利用できます。一方、Brain Ageを構築する場合にはbrain-enriched proteinsへと候補が限定されます。さらにBrainをastrocyte、neuron、microglia、oligodendrocyte、endothelial cellなどに分解すると、各cell typeに比較的特異的なproteinsはさらに限られます。
したがって、Whole body → Organ → Cell typeと解析のbiological resolutionを高めるほど、モデル構築に利用できる候補featuresは希少になります。
実際、Ohらの2023年Organ Age研究では、SomaScan Assayで測定した約5,000 proteinsの中からorgan-enriched proteinsを定義し、その候補集合を用いて各臓器のage prediction modelを構築しています。モデルにはLASSO regressionが用いられ、500回のbootstrap aggregationと5-fold cross-validationを組み合わせることで、多数の候補proteinの中から年齢予測に寄与する比較的少数のfeaturesを選択しています。
2025年にOlinkを用いてOrgan Ageを検証した研究でも、同様にorgan-enriched proteinsを候補とし、LASSO regressionによって各臓器のage predictorが構築されています。つまり、測定platformは異なっていても、まず臓器に関連する候補proteinを広く定義し、その中から正則化回帰によって有用なfeaturesを選択するという基本的な設計は共通しています。
Cell Ageでは、この特徴量の希少化がさらに顕著になります。Dingらの2026年研究では、SomaScan Assayの7,289 proteinsのうち約1,202、Olinkの2,923 proteinsのうち約708がcell-type-enriched proteinsとして解析対象となりました。各cell typeについてはelastic net regressionを用いてaging modelが構築され、bootstrap aggregationとcross-validationによってモデルの安定性と汎化性能が評価されています。
ここで重要なのは、high-plex proteomicsの目的が、最終的なモデルにできるだけ多くのproteinを残すことではないという点です。
LASSOやelastic netのような正則化手法は、多数の候補featuresの中から予測に有用な変数を選択できます。不要な変数はモデルから除外できます。一方で、測定されていないproteinを後からモデルが選択することはできません。
したがって、
proteome coverageの意味は、最終モデルの変数数を増やすことではなく、machine learningが選択できるbiologically informativeな候補featuresの探索空間を広げること
にあります。
この観点から見ると、Dingらの研究でSomaScan AssayとOlinkの双方からCell Age modelが成立していることは重要です。Cell Ageそのものは特定platform固有の概念ではありません。一方で、より広いcoverageによって、各organ / cell typeについてモデル構築時に検討できる候補proteinの絶対数を増やせる可能性があります。
また、organ- / cell-specific proteinsの中には血漿中濃度が低いものも存在します。とくに中枢神経系など、血液から遠い組織に由来するprotein signaturesを解析する場合には、単純な測定項目数だけでなく、低濃度proteinを検出できるsensitivityやdynamic range、さらにモデル間・時点間の比較を支えるreproducibilityも重要になります。
そのため、Organ Age / Cell Age研究における実際のbiological discovery spaceは、単純なprotein数ではなく、
coverage × sensitivity × dynamic range × reproducibility
の組み合わせによって規定されると考えるのが適切です。
今後、single-cell transcriptomicsやspatial biologyによって、cell typeからさらにcell subtypeやcell stateへ解析単位が細分化されれば、各カテゴリーに対応するprotein featuresはさらに希少になる可能性があります。その際、広いproteome coverageは、より高い生物学的解像度でaging-related signaturesを探索するための基盤として、さらに重要になると考えられます。
SomaScan 11K Assayをどう位置づけるべきか
現在のSomaScan Assayでは測定対象が約11,000 analytesまで拡張されています。
ただし、測定対象が7Kから11Kへ増加したことのみを理由に、Organ AgeやCell Ageの予測性能が向上すると断定することはできません。モデル性能は、追加されたproteinsのorgan / cell specificity、血中濃度、technical performance、対象population、training design、algorithmなどにも依存します。
現時点でより妥当な解釈は、
測定対象が広がることで、
従来のpanelでは観測できなかった
organ- / cell-enriched proteinsを
解析対象に含められる可能性が拡大する
というものです。
Single-cell transcriptomicsやspatial biologyでは、すでにdisease-associated microglia、inflammatory fibroblast、exhausted T cellなど、従来のcell type分類より細かなcell stateが定義されています。
将来的には、
Whole body → Organ → Cell type → Cell subtype / Cell state
という方向へproteomic aging研究が進展する可能性があります。
Epigenetic Ageとの関係
Biological ageを推定する代表的な方法としては、proteomic clock以外にDNA methylationを用いたepigenetic clockがあります。
Horvathによる2013年のpan-tissue epigenetic clock以降、組織特異的clockや疾患・死亡リスクに関連する多様なepigenetic aging modelが開発されてきました。
2025年にSehgalらが報告したSystems Ageでは、血液DNA methylationからHeart、Lung、Kidney、Liver、Brain、Immuneなど11 physiological systemsについてsystem-specific aging scoreを算出しています。
これはproteomic Organ Ageと類似した目的を持ちますが、臓器特異性の定義方法は異なります。
Proteomic Organ Ageでは、組織発現情報からorgan-enriched proteinsを選択し、そのplasma abundanceを基にモデルを構築します。一方、Systems Ageではblood DNA methylationと各physiological systemに関連するclinical phenotypeとの関係からsystem-specific scoreを構築しています。
したがって、両手法で得られる「Brain Age」や「Liver Age」は同義ではなく、異なるbiological layerを反映している可能性があります。
概念的には、DNA methylationは比較的持続的なcellular regulatory stateやaging historyを、plasma proteomeは分泌、代謝、組織障害、細胞組成変化などを含む現在のphysiological stateを比較的強く反映すると考えられます。
ただし両者を単純に上流・下流へ二分することはできず、今後はmulti-omics integrationによって相補的に評価される可能性があります。
Biological Age研究は「単一の年齢」から「多層的なaging phenotype」へ
Proteomic aging研究の流れを俯瞰すると、研究対象は単純なchronological age predictionから大きく変化しています。
Whole-body ageからOrgan Ageへ、さらにCell Ageへと解析単位が細分化されることで、研究の問いも、
「生物学的に何歳か」
から、
「どの臓器、どのcell typeで
aging-related changeが進行しているか」へ
と変わりつつあります。
この文脈におけるhigh-plex proteomicsの価値は、測定protein数そのものではありません。より重要なのは、血液というアクセス性の高い検体から解析可能なbiological feature spaceを広げ、老化をより細かな生物学的単位へ分解して検討できる可能性にあります。
Organ AgeやCell Ageは現時点では研究用の推定指標であり、臓器や細胞の「真の年齢」を直接測定するものではありません。また、SomaScan Assayだけで成立する概念でもありません。
一方で、複数のplatform、cohort、疾患アウトカムにおいて同様のaging heterogeneityが再現され始めていることは、この研究領域が単なるage predictionを超え、臓器・細胞単位のdisease biologyを解析する方向へ発展していることを示しています。
主要なproteomic aging研究の比較
| 研究 | 誌名 | 対象・規模 | Proteomics | 解析単位 | 主なアプローチ | 主な知見・位置づけ |
|---|---|---|---|---|---|---|
| Lehallier et al., 2019 | Nature Medicine | 4,000人超、広い年齢範囲 | SomaScan Assay | Whole body | 年齢と関連するplasma proteinsを網羅的に解析 | Plasma proteomeの加齢変化が単純な線形ではなく、特定時期に大きく変動することを提示。Proteomic aging研究の基盤。 |
| Sathyan et al., 2020 | Aging Cell | LonGenity cohort、1,025人 | SomaScan Assay 4K | Whole body | 4,265 proteinsからage-associated proteinsを同定し、elastic netでproteomic ageを構築 | 754 proteinsが実年齢と関連。Proteomic ageとhealthspan・死亡との関連を提示。 |
| Oh et al., 2023 | Nature | 5 cohorts、計5,676人 | SomaScan Assay、約5K | Organ | Organ-enriched proteinsを定義し、11臓器ごとにage modelを構築 | 約20%が少なくとも1臓器でextreme aging、1.7%がmulti-organ ager。Organ Ageと対応臓器疾患・死亡との関連を提示。 |
| Argentieri et al., 2024 | Nature Medicine | UK Biobank 45,441人+中国・フィンランドで外部検証 | Olink、2,897 proteins | Whole body | Plasma proteinsからproteomic age clockを構築 | Proteomic ageが18種の慢性疾患、multimorbidity、死亡などと関連。異なるpopulationでも高い年齢予測精度を確認。 |
| Oh et al., 2025 | Nature Medicine | UK Biobank 44,498人、最大17年追跡 | Olink Explore 3072、2,916 proteins | Organ | 11臓器のorgan-enriched proteinsからage modelを構築 | Organ Ageを大規模prospective cohortで検証。Brain Age / Immune Ageと疾患、healthspan、longevityとの関連を提示。 |
| Kang et al., 2025 | The Journal of Prevention of Alzheimer’s Disease | CHARIOT PRO SubStudy、409人、4時点・3年間 | SomaScan Assay v4.1 | Organ | 既報のorgan-age weightsを適用し、Age Gapと認知機能を縦断解析 | Organ-specific Age Gapとその後の認知機能変化との関連を検討。Organ Ageのlongitudinal validationへ展開。 |
| Wang et al., 2025/2026 | Nature Aging | UKB 43,616人+中国3,977人+米国800人 | Olink Explore 3072、2,916 proteins | Whole body / Organ | Organismalおよび10 organ-specific aging clocksを構築 | 疾患、死亡、認知、脳構造、遺伝要因との関連を複数populationで検証。Organ Age概念を独立に支持。オンライン出版は2025年、巻号は2026年。 |
| Ding et al., 2026 | Nature Medicine | 3 cohorts、計60,542人 | SomaScan Assay 7,289 proteins / Olink 2,923 proteins | Cell type | Single-cell transcriptomeからcell-type-enriched proteinsを定義し、cell-type aging modelを構築 | 40種類超のCell Ageを解析。Astrocyte–AD、skeletal myocyte–ALSなどの関連を提示し、OrganからCellへ解析解像度を拡張。 |
| Robinson et al., 2026 | Nature Aging | EPIC 17,473人、最大28年追跡+Whitehall II | SomaScan Assay | Whole body / Organ | Globalおよびorgan-specific proteomic age gapをprospectiveに解析 | Lifestyle、死亡、CVD、認知症、癌との長期的関連を検証。Lung Age–lung cancer、Kidney Age–kidney cancerなど対応臓器との関連を提示。 |


