マルチオミクス解析により見出されたCOVID-19重症化前の分子シグネチャー

研究の背景と目的
COVID-19(Coronavirus disease 2019)は、発症早期に軽症・中等症と診断されても、その後、重症化や死亡に至る例がみられ、現在も新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症の病態理解と重症化リスクの早期把握が重要な課題となっています。重症例では、強い炎症反応と免疫応答の異常が病状悪化や予後不良に関与することが示されています。本研究では重症化に先立つ分子変化を明らかにするため、重症化前の血漿検体を用いてマルチオミクス解析を行い、重症化予測マーカー候補を探索しました。
研究方法
2020年に国立国際医療研究センター病院に入院したCOVID-19患者399例のうち、入院時は軽症〜中等症で、その後に重症化した7例を抽出し、年齢・性別をマッチさせた非重症化例23例と比較しました。入院当日の血漿を用いて、脂質、脂質メディエーター、水溶性代謝物、タンパク質および臨床検査値を対象にマルチオミクス解析を実施しました。タンパク質にはSomaScanTM 7K Assay(v4.1)を用いました。
結果
入院時の臨床検査値では、重症化群でCRP及び好中球数が安定群より高い傾向を示しました。マルチオミクス解析の結果、脂質12種、水溶性代謝物4種、タンパク質44種の計60分子が重症化予測マーカー候補として抽出されました。なかでもCCL7(C-C motif chemokine ligand 7)、CCL8、スレオニンはROC(Receiver Operating Characteristic)解析で良好な判別性能を示しました。また、DNASE1L2や脂質のLPS 20:0(リゾホスファチジルセリン)も候補分子として挙げられました。さらに、タンパク質プロファイルは両群の分離に寄与し、免疫関連指標との相関解析では、炎症関連分子の一部がI型インターフェロン(IFN-α6、IFN-α8など)と逆相関を示しました。
考察
本研究は、COVID-19患者において、臨床的な重症化が明らかになる前の段階で、すでに血中分子プロファイルに変化が生じている可能性を示しています。日常診療で用いられる炎症指標に加え、マルチオミクス解析により新たな候補分子が抽出された点は、重症化に至る機序の理解や、重症化リスクの高い患者の早期発見に役立つ可能性があります。一方で、本研究は2020年の単施設・小規模解析であり、対象はワクチン未接種患者群です。流行株や治療状況が異なる他の患者集団への臨床応用には、今後の検証が必要です。
COI:フォーネスライフ社はSomaScan Assayを提供・販売する立場にあるため、本記事の掲載は利益相反に該当します。


