血中プロテオームを用いた肺機能関連タンパク質の探索
Axelsson GT et al. Respir Res. 2024 Jan 18;25(1):44. doi: 10.1186/s12931-023-02587-z.

研究の背景と目的
呼吸器疾患では、Forced Expiratory Volume in one second(FEV1、努力して息を吐いた最初の1秒間に吐き出せる空気量)の低下が重要です。FEV1は、COPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease、慢性閉塞性肺疾患)などの診断や進行評価にも使われますが、肺機能低下に関わる血中タンパク質の全体像や、その一部が因果的に関わるかどうかは十分に分かっていません。本研究は、血清プロテオームを網羅的に調べ、FEV1と関連するタンパク質と、肺機能に因果的に関わる可能性のある候補を明らかにすることを目的としました。
研究方法
対象は、AGES-Reykjavik研究(Age/Gene Environment Susceptibility-Reykjavik study)の参加者です。これは、2002〜2006年にアイスランドで実施された高齢一般住民コホートで、本解析では肺機能検査データのある1,479人を用いました。血清タンパク質はSomaScan™ Assay(5034 SOMAmer platform)で測定し、非ヒト由来の標的を除いた4,782種類のSOMAmerを解析対象としました。まず、年齢、性別、身長、年齢二乗、身長二乗で調整した線形回帰によりFEV1との関連を評価しました。次に、遺伝子多型を手がかりに因果関係を推定する双方向two-sample MR(Mendelian randomisation)解析を行い、タンパク質がFEV1に影響する方向と、逆にFEV1がタンパク質量に影響する方向の両方を調べました。さらにcolocalization解析で、タンパク質量に関わる遺伝子領域とFEV1に関わる遺伝子領域が、同じ原因変異を共有しているかを検証しました。
結果
観察解析では、4,782種類のうち530種類がFEV1と有意に関連しました。特に関連が強かったのは、RARRES2(Retinoic Acid Receptor Responder 2)、RSPO4(R-Spondin 4)、ALPPL2(Alkaline Phosphatase, Placental Like 2)でした。これら530種類のうち、224種類はFEV1/FVC比とも、160種類はFEV1/FVC比0.7未満とも関連しました。MR解析では、遺伝学的手がかりを持つ257種類のうち8種類がFEV1に因果的に関わる可能性を示しました。このうち、観察解析と方向が一致した有力候補はTHBS2(Thrombospondin 2)、ERO1B(Endoplasmic Reticulum Oxidoreductase 1 Beta)、APOM(Apolipoprotein M)の3種類でした。特にTHBS2はcolocalization解析でも強く支持され、タンパク質量とFEV1が同じ遺伝変異により説明される可能性が示されました。一方、逆方向MRでは、FEV1の変化がタンパク質量の変化を引き起こす有意な証拠は得られませんでした。
考察
本研究は、肺機能に関連する血中タンパク質を網羅的に示し、その一部については因果的関与の可能性まで示しました。特にTHBS2は、観察解析、MR、colocalizationの3つで支持されており、有望な候補です。一方、APOMは単一SNPに基づく解析であり、解釈には慎重さが必要です。今後は、他集団での再現と機能検証が求められます。
COI:開示すべき利益相反はありません。


