血漿プロテオームによるCOPDと重症喘息の分子エンドタイプ探索
Suzuki M et al. Clin Transl Allergy. 2021 Dec;11(10):e12091. doi: 10.1002/clt2.12091.

研究の背景と目的
COPD(Chronic Obstructive Pulmonary Disease, 慢性閉塞性肺疾患)と重症喘息は、どちらも気道が慢性的に狭くなりますが、背景にある分子機構は一様ではありません。特に高齢者では、両者に似た臨床像がみられることもあり、診断や治療選択を難しくしています。そこで本研究は、血漿中のタンパク質を網羅的に測定し、COPDと重症喘息を分子レベルで区別できるか、さらに各疾患内の分子エンドタイプと、その背景にある病態機序を明らかにすることを目的としました。
研究方法
対象は、北海道COPDコホートの安定期COPD 34人と、Hi-CARAT(Hokkaido-based Investigative Cohort Analysis for Refractory Asthma)由来の症状が安定している重症喘息 51人です。COPD群では医師診断の喘息を除外し、血中好酸球高値や気管支拡張薬反応性を示す例と示さない例を含めました。気管支拡張薬反応性は、サルブタモール 400 µg吸入後の1秒量変化で評価されています。
血漿タンパク質は、アプタマーを用いるSomaScan™ Assay(v3.2)で測定し、品質管理後の1233プローブで1238種類のタンパク質を評価しました。解析では、まず主成分分析(Principal Component Analysis, PCA)で全体の分離を確認し、次にk-meansクラスタリングで各疾患内の分子エンドタイプを抽出しました。さらに、GSEA(Gene Set Enrichment Analysis)の考え方を応用したタンパク質セット解析や、IPA(Ingenuity Pathway Analysis)による経路・上流制御因子解析、ExoCartaによるエクソソームマーカーの濃縮解析、BioGPSによる想定細胞由来の推定を行いました。
結果
まず、COPDと重症喘息の間には365種類のタンパク質量の差があり、PCAでも両群は明確に分かれました。この差は、年齢、性別、BMI、喫煙歴、吸入ステロイドや経口ステロイド量、保存期間ではほぼ説明されませんでした。経路レベルでは、喘息では補体・凝固系と炎症反応が高く、COPDでは増殖因子シグナル、ストレス応答、細胞周期制御、ミトコンドリア機能、キナーゼシグナルが高い傾向がみられました。つまり、両者は似た臨床像を持っていても、喘息では炎症・補体系優位、COPDでは細胞ストレス応答や修復反応優位という異なる分子ネットワークを示しました。
疾患内解析では、重症喘息で4つの分子エンドタイプ、COPDで3つの分子エンドタイプが見いだされました。喘息では230種類のタンパク質がクラスター形成に関わり、炎症応答、Th2応答、組織リモデリング、感染応答低下、上皮成長などの違いを持つ群に分かれました。たとえば Asthma-2 ではIL-13(Interleukin-13)やTNF(Tumor Necrosis Factor)などに関連する炎症・Th2・自然免疫応答が強く、Asthma-3ではISG15、IFNγ、Complement C3 など感染応答関連分子が低い特徴がありました。Asthma-4は血中・喀痰好酸球、呼気一酸化窒素、IgEが高く、アレルギー炎症の色合いが強い群でした。
一方COPDでは、121種類のタンパク質が3群を分け、特に一群では肺拡散能(Kco)の年次低下との関連が示されました。関連するタンパク質群は、壊死、細胞移動、臓器炎症、結合組織増殖に関わる機能を示し、PAK6(p21-activated kinase 6)はKco低下との相関が最も強い候補でした。また、喘息の一部群とCOPDの一部群では、免疫・炎症細胞由来のエクソソーム関連マーカーが有意に多く、細胞外小胞を介した情報伝達が病態に関わる可能性も示されました。
考察
本研究は、COPDと重症喘息が臨床的に重なる特徴を持っていても、血漿プロテオームでは異なる分子ネットワークを示すことを明らかにしました。特に、喘息では補体・炎症応答、COPDでは細胞ストレス、修復、酸化ストレス、B細胞関連応答が目立ちました。また、各疾患内にも複数の分子エンドタイプがあり、同じ診断名でも病態は一様でないことが示されました。さらに、エクソソーム関連分子の濃縮は、細胞外小胞を介した情報伝達が病態形成に関わる可能性を示す重要な所見です。一方で、探索的研究であり症例数も多くないため、今後は外部集団での再現と機能検証が必要です。

