【レビュー】ハイプレックス・プロテオミクスは臨床試験でどこまで使われているのか

疾患探索、薬剤作用機序、治療反応予測から臨床エンドポイントへの道筋

血液中には、臓器障害、炎症、免疫応答、代謝、線維化、血管機能など、人体の状態を反映する多様な種類のタンパク質が存在します。これらを一度に数千種類測定するハイプレックス・プロテオミクスは、臨床試験で得られた検体から、薬剤投与に伴う生体内の分子変化や作用機序に関連する経路を幅広く調べる手段として利用され始めています。

実際に、SomaScanまたはOlink Exploreなどを用いた解析は、Phase II・III試験の保存検体を利用した疾患研究、治療前後の変化、薬力学、作用機序、治療反応予測などに広がっています。一部の試験では、プロテオーム解析がプロトコルまたは統計解析計画書に記載された公開例もあります。

特に「臨床試験の検体を測定した」ことと、「プロテオーム解析が臨床試験の意思決定に使われた」ことは同じではありません。Phase III試験由来の検体を使っていても、試験終了後に追加された探索研究であれば、その結果が患者選択や承認判断に直接使われたわけではありません。

では、

ハイプレックス・プロテオミクスは、
臨床試験・臨床開発のどの段階まで到達しているのでしょうか。

本稿では、公開されている臨床試験と関連研究をもとに、現在の利用状況を6段階に分けて整理します。

ハイプレックス・プロテオミクスとは

従来のタンパク質バイオマーカー研究では、ELISAなどを用いて、あらかじめ選んだ1種類または数種類のタンパク質を測定する方法が一般的でした。サイトカインパネルなどを用いれば数十種類を同時に測定できますが、解析対象は事前に想定した経路に限られます。

これに対してハイプレックス・プロテオミクスでは、少量の血清や血漿から、数千種類のタンパク質を一括して測定します。薬剤の既知の作用経路だけでなく、予想外の経路や代償反応、臓器横断的な影響を示唆するタンパク質変化なども含めて広く探索できることが特徴です。

代表的な技術として、SomaScan AssayとOlink Exploreがあります。

SomaScan Assayは、タンパク質に結合する修飾アプタマーであるSOMAmerを用いる技術です。アッセイの世代によって測定規模は異なり、数千から約1万種類のタンパク質を測定できます。

Olink Exploreは、2種類の抗体が同じタンパク質に近接して結合したときにDNAレポーターを形成する近接伸長アッセイ、すなわちPEAを基盤としています。NGSによる読み出しを組み合わせ、数千種類のタンパク質を測定します。

どちらも、測定対象があらかじめ設計された結合試薬によって定義されるアフィニティープロテオミクスです。質量分析を用いた探索型プロテオミクスとは測定原理が異なりますが、測定対象が数千種類のタンパク質に及ぶため、既知の仮説に限定されない広範な探索が可能になります。

本稿では、おおむね1,000種類以上、特に数千種類のタンパク質を包括的に測定する解析を、ハイプレックス・プロテオミクスの中心として扱います。

Olink ExploreとOlink Targetは分けて考える必要があります

Olinkを用いた研究を理解する際には、Explore系とTarget系を区別することが重要です。

Olink Exploreは、1,000種類を超えるタンパク質を測定する大規模なプロテオミクス製品です。一方、Olink Target 96は通常、1パネル当たり約92種類のタンパク質を測定する疾患領域・生物学的経路別のパネルです。

Target 96も、多種類のタンパク質を高感度に測定できる有用な技術です。しかし、数千種類のタンパク質から未知の変化を探索するSomaScanやOlink Exploreとは、基本的な利用目的が異なります。

Target 96は、例えば次のような用途に適しています。

  • 炎症、心血管、神経など、特定領域のタンパク質を測定する
  • 既知の作用経路を集中的に確認する
  • ハイプレックス解析で見つかった候補を追跡する
  • 臨床試験に限定的なタンパク質パネルを組み込む
  • 数千種類の探索よりも、測定対象と仮説を絞った解析を行う

複数のTarget 96パネルを組み合わせて多種類のタンパク質を測定する研究もあります。測定項目数が増えても、製品系統としてはTargetの複数パネル解析であり、Explore系の包括的解析とは区別して扱います。

本稿では、SomaScanおよびOlink Exploreによる数千種類のタンパク質規模の解析を主題とし、Olink Targetを用いた研究は補足的な位置づけとします。

臨床試験における利用段階を6つに分ける

ハイプレックス・プロテオミクスの臨床利用を評価する際、

臨床試験のPhaseだけを見ると実態を見誤ることがあります。

Phase III試験の保存検体を使った事後探索と、Phase I・II試験で前向きに計画された薬力学解析では、臨床開発への組み込まれ方が異なります。評価時には試験のPhaseに加えて、解析目的、計画の時期、結果の利用目的を区別する必要があります。

そこで本稿では、解析目的を中心としたLevel 1~4に、試験計画への組み込み(Level 5)と規制利用(Level 6)の観点を加え、利用状況を6つに整理します。各Levelは必ずしも順序通りに進むものではなく、同一研究が複数の特性を持つ場合があります。

段階利用方法主な目的
Level 1臨床試験付随の探索研究疾患生物学、予後、患者サブタイプの理解
Level 2治療関連変化の探索治療前後または実薬・対照群間の変化を発見
Level 3薬力学・標的関与・作用機序薬剤がヒトでどの経路に作用したかを評価
Level 4治療反応予測・患者層別化治療前情報から効果が期待できる患者を予測
Level 5前向きに規定されたプロテオーム評価プロトコルや統計解析計画書に組み込む
Level 6規制上確立された利用代替エンドポイントや適格性認定バイオマーカーとして使用

この分類は、プロテオーム解析の主な目的と、臨床試験計画・規制利用への組み込まれ方を整理する本稿独自の枠組みです。バイオマーカーそのものの分析性能や臨床的妥当性を直接示すものではありません。

特に重要なのは、次の3つを区別することです。

測定プラットフォーム、バイオマーカー、臨床エンドポイントは、
それぞれ異なります。

SomaScanやOlink Exploreは、数千種類のタンパク質を測定するプラットフォームです。その中から選ばれたタンパク質や、多種類のタンパク質を組み合わせた指標がバイオマーカー候補になります。これらは検証結果と利用目的に応じて、患者選択、薬力学評価、臨床試験の評価項目などに用いられますが、患者選択に使うことと臨床エンドポイントになることは同じではありません。

したがって、数千種類のタンパク質を測定したという事実だけで、その研究がLevel 5やLevel 6に到達するわけではありません。

Level 1:臨床試験の検体を疾患研究に活用する

代表的な利用法の一つは、臨床試験で収集・保存された検体を用いて疾患生物学を探索することです。

臨床試験では、試験計画で規定された診断、重症度、治療、検査値、臨床イベントなどが記録されます。試験に付随して保存された血清・血漿をこうした臨床情報と結びつけることで、疾患関連タンパク質を探索するための研究資源として活用できます。

例えば、慢性腎臓病を対象としたDAPA-CKDのベースライン血漿解析では、慢性腎臓病の原疾患別のタンパク質プロファイルと関連経路が探索されています。こうした解析は、同一の慢性腎臓病診断に分子的不均一性がある可能性を示唆します。

Protein profiles and associated biological pathways among different aetiologies of chronic kidney disease: new insights from DAPA-CKD|Nephrology Dialysis Transplantation

ただし、進行と関連するタンパク質だけでは、治療効果バイオマーカーとは結論できません。疾患重症度または予後を反映する候補である可能性があります。

Level 1は、創薬標的、予後バイオマーカー、患者サブタイプの候補を見いだす出発点です。しかし、この段階の所見は通常仮説生成的で、患者選択または投与判断への利用には前向き検証が必要です。

Level 2:治療によって変化するタンパク質を探索する

次の段階では、治療前後の変化を実薬群と対照群で比較し、治療に関連するタンパク質変化を探索します。

探索的付随解析の例には、以下のようなものがあります。

  • 投与前と投与後のタンパク質量の比較
  • 実薬群とプラセボ群の変化量の比較
  • 投与量別のプロテオーム変化
  • 治療反応者と非反応者の変化量の比較
  • 有害事象の有無によるプロテオームの比較

この段階では、治療関連変化は、薬剤の直接標的経路を必ずしも示しません。

例えば、セマグルチドで観察された変化は、体重・代謝変化を介する可能性と、それらで説明しきれない関連を区別する必要があります。

臨床指標、薬物曝露、用量、既知の作用経路と併せて検討することで、薬力学や作用機序に関する仮説をより詳細に評価できます。

Level 3:薬剤がヒトでどのように作用したかを読み解く

Level 3は、薬力学・標的関与・作用機序に関する仮説探索に有用な用途の一つです。

臨床開発では、患者で予想された薬理が示唆されるかを理解することが重要です。

臨床的有効性が得られない理由には複数の可能性があり、単一のオミクス解析のみで原因を確定することはできません。

  • 薬剤が標的に十分作用していなかった
  • 標的には作用したが、疾患改善にはつながらなかった
  • 適切な患者集団が選ばれていなかった
  • 投与量または投与期間が不十分だった
  • 別の経路が代償的に活性化した
  • 臨床評価項目が分子レベルの変化を捉えられなかった

ハイプレックス・プロテオミクスは、複数の生物学的仮説を優先順位付けする補助情報を提供します。

セマグルチド:STEP 1・STEP 2

プロテオームの治療関連変化を探索的に評価した代表例が、肥満および2型糖尿病患者を対象としたセマグルチドのPhase III試験、STEP 1およびSTEP 2です。

この研究では、SomaScan v4.1の7,289アプタマーを用いて、約6,400種類のユニークなヒトタンパク質の相対量が測定しました。プロテオミクス解析への同意者はSTEP 1で1,311人、STEP 2で645人であり、解析可能なペア血清は合計で1,728人分(STEP 1:1,133人、STEP 2:595人)でした。血清の採取はベースラインと68週時に行われています。

セマグルチド投与によって、体重、糖・脂質代謝、炎症などに関わると注釈されたタンパク質群で、治療群間のタンパク質変化が探索されました。

さらに、体重およびHbA1cの変化を調整したモデルで、なお観察される治療群間差も探索されました。これは、体重・HbA1cで説明される部分と統計モデル上なお残る関連を探索しています。

研究では、臨床試験で観察された変化を、実世界コホートで得られた疾患関連プロテオームシグネチャとも比較しています。得られた所見は将来の疾患横断的仮説の材料となり得るものです。

Proteomic changes upon treatment with semaglutide in individuals with obesity|Nature Medicine

この研究は、大規模なPhase III試験で得られた、同意済み参加者の保存検体を用いています。しかし、本プロテオミクス解析は承認の主要評価項目ではなく、治療関連のプロテオーム変化と機序仮説を探索する付随解析です。したがって、本事例はLevel 3の「機序仮説探索」の例として位置づけられますが、標的関与または因果的作用機序を単独で証明するものではありません。

エンパグリフロジン:EMPEROR

心不全患者を対象としたEMPERORプログラムの付随解析では、Olink Explore 1536を用いて、エンパグリフロジン投与に伴う血漿タンパク質の変化を測定しました。

1,134人で1,283種類の血漿タンパク質を経時的に測定し、治療関連変化を探索した解析では、腎臓、心臓、血管内皮、オートファジーなどに関係する経路が仮説として報告されています。

Effect of empagliflozin on circulating proteomics in heart failure|PubMed

後続研究では、同一EMPERORプログラムの非重複参加者でシグネチャの再現性を検討しています。探索解析では1,134人の1,283種類のタンパク質、検証解析では独立した1,120人の2,155種類のタンパク質が評価され、エンパグリフロジンによる作用機序シグネチャの再現性が検討されています。

Reaffirmation of Mechanistic Proteomic Signatures Accompanying SGLT2 Inhibition|Olink

この事例は、ハイプレックス・プロテオミクスにおいて、別の非重複セットで治療関連シグネチャの再現性を検討でき、機序仮説の確からしさを高め得ることを示しています。

ダパグリフロジン:DAPA-CKD

DAPA-CKDの付随解析では、ベースラインの血漿プロテオームが得られた2,485人を対象に、Olink Explore 3072を用いた血漿プロテオーム測定が行われました。原疾患別研究は2,926種類のタンパク質を扱い、薬剤作用の研究ではLOD未満値や重複の除外後、2,402種類のタンパク質を解析しています。後者でベースラインと1年後の検体が揃ったのは1,982人です。

腎アウトカムと統計的に関連した経路のうち、ダパグリフロジンで変化した経路を探索し、細胞外マトリックスの再構築、炎症・線維化、免疫・血管関連の経路が示され、腎保護作用との関連が示唆されています。

Protein profiles and associated biological pathways among different aetiologies of chronic kidney disease: new insights from DAPA-CKD|Nephrology Dialysis Transplantation

New insights from DAPA-CKD indicate that dapagliflozin modulates key pathways related to kidney outcomes|Kidney International

同一DAPA-CKD由来のプロテオームデータを、原疾患と治療関連変化という別目的の探索解析に用いた例でもあります。

原疾患別のプロテオーム解析はLevel 1、治療群間の経時差はLevel 3の機序仮説の探索として整理できます。同じ試験由来データでも、解析目的・比較・解釈の範囲により位置づけは異なります。

ソタテルセプト:肺動脈性肺高血圧症

PULSARを含む肺動脈性肺高血圧症に対する試験参加者の小規模生物学的研究で、Olink Explore 3072による2,554種類の循環タンパク質解析が行われています。

ソタテルセプトはACTRIIA-Fc融合タンパク質としてActivinやGDFなどのTGF-βスーパーファミリーのリガンドを捕捉し、肺動脈性肺高血圧症の異常シグナル均衡を是正することを意図した薬剤です。この探索的解析では、投与に伴うBMP-9、BMP-10などの循環タンパク質変化が報告され、血行動態・運動耐容能の結果と並行して、プロテオーム変化を探索しました。

このようにハイプレックス解析は、血管・炎症・増殖・リモデリングに関する複数の候補経路を探索するうえで有用です。

Effect of Sotatercept on Circulating Proteomics in Pulmonary Arterial Hypertension|European Respiratory Society

Level 4:治療前に治療に反応する患者を予測できるか

臨床開発では、治療開始前の情報から治療利益の異質性を評価することが重要な用途の一つです。

ただし、治療効果予測を論じる際は、予後因子と予測因子を区別する必要があります。

予後バイオマーカーは、疾患の経過や臨床イベントの発生可能性に関する情報を示します。これに対し予測バイオマーカーは、特定の治療によって得られる効果がバイオマーカーの状態により異なることを示します。

例えば、重症患者でタンパク質Aが高く、治療反応も悪かったとしても、タンパク質Aは単に重症度を表しているだけかもしれません。特定薬剤への反応を予測していることを示すには、治療群と対照群を比較し、治療効果とバイオマーカーの関係(交互作用など)を評価することが重要です。

セクキヌマブ:FUTURE 1~5

乾癬性関節炎に対するセクキヌマブのFUTURE 1~5試験では、患者1,989人のベースライン血清のSomaScanデータ(4,785 SOMAmer)を用いて探索解析しました。

統計学習で選定されたベースラインのβ-defensin 2は、IL-17阻害薬であるセクキヌマブのACR反応と関連することが示されました。FUTURE 1・3・4・5を主な学習用データとして、FUTURE 2を発見に用いないテストデータとして用い、別途EXCEEDでも検討している点が特徴です。

Analysis of serum proteomics data identifies a quantitative association between beta-defensin 2 at baseline and clinical response to IL-17 blockade|RMD Open

この研究は、SomaScanによるハイプレックス解析で候補を探索し、β-defensin 2を治療反応予測候補として絞り込んだ探索・検証の例です。

ただし、予測候補の発見は、患者選択への使用またはコンパニオン診断化を意味しません。臨床実装には、意図する使用目的に応じ、再現性、測定法の分析的妥当性、カットオフ値、臨床的妥当性・有用性を示す検証が必要です。

「反応者と非反応者の比較」だけでは不十分です

プロテオーム研究では、反応者と非反応者のタンパク質差を報告する例が数多くあります。しかし、そのすべてを治療反応予測と呼ぶことはできません。特に、治療後に変化し臨床効果と相関するタンパク質は、反応または薬力学的マーカー候補となり得ますが、治療開始前の患者選択を直接支持しません。

治療反応予測として評価するためには、次の設計・検証要素を総合的に検討する必要があります。

  • 治療開始前の検体を用いている
  • 実薬群と適切な対照群の差を評価している
  • 治療とバイオマーカーの交互作用を評価している
  • モデルを固定した後、発見に用いないデータへ適用している
  • (可能であれば)独立した試験またはコホートで再現性を確認している

本稿で選定した文献では、Level 4に該当する報告は限られていました。

Level 5:プロテオーム解析を試験計画に組み込む

Level 5の評価では、試験開始前、検体採取前、結果閲覧・盲検解除前、解析開始前のどの時点までに、何が規定されていたかを、文書の版と日付に基づいて確認します。

特にプロテオーム解析の計画が文書化されていても、試験開始当初からの規定とは限りません。そのため、検体採取、結果閲覧・盲検解除、解析開始の各時点に対して、計画の確定時期を区別して評価する必要があります。

さらに、前向きに規定されているからといって、個々のタンパク質やプロテオーム指標が検証済みであるとは限りません。数千種類のタンパク質を対象とした探索解析を、あらかじめ探索的評価項目として設定する場合もあります。

アルツハイマー病を対象としたセマグルチド試験

アルツハイマー病患者を対象としてセマグルチドの中枢・末梢炎症への影響を調べるNCT05891496では、数千種類のタンパク質規模のCSFおよび血漿のベースラインから12週後のプロテオーム変化が探索的解析として規定されています。

計画書にはNPXデータ、QCおよび多重検定補正の取扱いが記載されています。

NCT05891496 Statistical Analysis Plan|ClinicalTrials.gov

この事例では、2024年11月版プロトコルと同年12月版統計解析計画書にプロテオーム解析計画が記載されています。

ただし、公開されている統計解析計画書では、Olinkの具体的製品系統および測定タンパク質数は確認できません。したがって、Olink由来NPXデータの解析計画は確認できますが、ハイプレックス規模かは公開されている統計解析計画書からは判断できません。

このように、Level 5の事例を評価する際には、次の2点を分けて確認する必要があります。加えて、規定された内容と文書の確定時期も確認します。

  • プロテオーム解析が前向きに規定されているか
  • その解析が実際にハイプレックス規模であるか

ハイプレックスに限定すると、本稿で確認した公開情報では、製品系統と規模まで確認できる例は限られます。

Olink Targetの解析を、測定規模と事前規定の両面から捉える

Olink Target 96は、あらかじめ選定された最大92種類のタンパク質を対象とする標的パネルです。一方、測定対象が明確で、解析計画を臨床試験に組み込みやすいという特徴があります。

そのため、Olink Targetの研究は、プロテオーム解析が臨床試験へ前向きに組み込まれた例として比較的見つけやすくなります。しかし、それをすべてハイプレックスのLevel 5事例として数えると、実態よりも臨床実装が進んでいるように見える可能性があります。

例えば、急性移植片対宿主病に対するitacitinibとコルチコステロイドの研究では、Olink公式サイトからOlink PEAの使用が確認できます。ただし、論文上の1,000種類のタンパク質を超えているという記載のみから、使用製品系統または複数パネル構成を特定することはできません。

A biomarker signature to predict complete response to itacitinib and corticosteroids in acute graft-versus-host disease|Olink

この研究は、原著で確認できるOlink PEAによる広範なタンパク質測定と、治療反応予測候補の検証例として位置づけられます。ただし、具体的なパネル構成は不明であり、試験計画への前向きな組み込みを示すLevel 5の証拠とは区別する必要があります。

同様に、数百種類のタンパク質規模のTarget解析は、限定的なマルチプレックス・バイオマーカー研究として重要ですが、数千種類のタンパク質を対象とするハイプレックス探索の実績とは区別する必要があります。

臨床開発の流れとしては、次のような役割分担が考えられます。

  1. SomaScanやOlink Exploreで広範な候補を探索します。
  2. 臨床効果、薬物曝露、作用経路との関係から候補を絞ります。
  3. Olink Targetなどの限定パネル、または個別免疫測定法で追跡します。
  4. 独立試験で検証します。
  5. 臨床運用を目指す場合には、用途に応じて少数項目アッセイまたは固定済み多項目測定系へ移行する選択肢があります。

Olink Targetなどの標的パネルは、候補確認または前向き評価に用いる選択肢の一つです。

Level 6:承認判断に使える段階には到達しているか

規制利用を目指す段階では、特定の使用目的(Context of Use)に対してバイオマーカーまたは代替エンドポイントとしての根拠を構築します。

規制上の位置づけは互いに異なるため、以下を区別して説明します。

  • 主要な臨床転帰に代わることが、当該用途で十分に裏付けられた代替エンドポイント
  • 特定のCOUについて規制当局が適格性を認めたバイオマーカー
  • 特定薬剤の安全かつ有効な使用に必要と承認・表示されたコンパニオン診断
  • 承認申請で、特定の用途において治療効果の評価を支持するバイオマーカーまたはエンドポイント
  • 複数試験で事前固定・検証された多種類のタンパク質指標(特定COUでの根拠の一部)

2026年9月までに公表されたFDA資料および対象文献の範囲では、

SomaScanまたはOlink Exploreによる数千種類のタンパク質データそのものを規制上の代替エンドポイントとして扱った承認事例は確認できいません。

これは、両プラットフォームが臨床試験由来検体の探索解析に利用されていないことを意味しません。探索的解析や、薬剤投与に関連する生物学的変化の解析に利用された事例があります。しかし、承認判断または臨床利用を意図する場合、用途に応じた分析性能、臨床的根拠および規制上の検討が必要です。

  • 試料採取・保存条件の管理と妥当性確認
  • 測定の正確さ・再現性の実証(ロット・施設差を含む)
  • 比較可能性・ブリッジングの評価
  • 個々の測定項目および必要に応じてパネルまたはモデル全体の分析性能
  • 臨床的または開発上の意思決定に用いる解釈基準の妥当性確認
  • モデルと解析手順の事前規定・固定
  • 独立した適切な患者集団での再現性確認
  • 臨床的に妥当なカットオフ値の設定と検証
  • 臨床的有用性の検証(患者選択に用いる場合には、治療上の利益の確認など)
  • 規制当局との早期相談または所定の手続き

ハイプレックス解析で得られた多種類のタンパク質モデルを臨床用測定系として検証する方法と、候補を絞って別法で確認する方法があります。

したがって、ハイプレックス・プロテオミクスは、承認検査化の可否とは別に、臨床開発の探索・仮説形成を支える用途でも評価できます。上流の探索基盤として、創薬標的仮説、薬力学候補、治療反応予測候補、標的パネル候補の創出に寄与し得ます。

「作用機序の解明」への応用

本稿で確認した公開事例は、以下のように整理できます。

  • 疾患関連経路や原疾患による違いの探索に利用されています
    • 臨床試験由来の検体と臨床情報を組み合わせ、疾患関連経路や治療反応を探索した事例があります。
  • 治療関連変化や薬力学・作用機序仮説の探索が中心です
    • STEP 1・STEP 2、EMPEROR、DAPA-CKDなどでは、大規模な無作為化比較試験から得られた検体を用いることで、治療群間で観察されたプロテオーム変化が解析されています。少なくともSTEP 1・STEP 2の統合解析、EMPEROR、DAPA-CKDでは、1,000人を超える解析集団を含む研究が報告されています。
  • 治療反応予測候補の評価に利用されています
    • FUTURE 1~5のように、複数のPhase III試験を横断し、ベースラインタンパク質と治療反応の関連を評価し、予測候補を検討した研究が報告されています。
    • 一方、患者選択に用いるには、独立検証に加え、固定モデル、測定性能、臨床的有用性および必要な規制上の根拠が必要です。
  • 試験文書に解析計画が記載された例があります
    • NCT05891496では、公開プロトコルに数千種類のタンパク質規模の解析計画が、統計解析計画書にCSF・血漿のプロテオーム変化の探索的解析が記載されています。ただし、公開情報だけでは製品系統・パネル・測定数が未記載の場合があるため、数千種類のタンパク質規模のハイプレックスであるかを慎重に判断する必要があります。
  • 規制上の代替エンドポイントとしての事例は確認できていません
    • 本稿で確認した事例では、探索、治療関連変化の評価、薬力学・作用機序仮説、バイオマーカー候補の創出が主な目的でした。承認判断に直接用いる代替エンドポイントとしての根拠は、本稿の作成時点では確認できていません。

ハイプレックス解析が臨床開発にもたらす価値

  • ヒト検体で治療と関連するプロテオーム変化を確認できます
    • 前臨床で得た仮説は、患者検体を用いて別途検討する必要があります。治療前後比較により、意図した経路に関連する変化がみられるかを探索できます。
  • 試験結果の解釈につながる仮説が得られます
    • 主要評価項目が達成されなかった場合でも、経路関連の探索所見は、患者選択、投与量、投与設計または評価項目に関する仮説を立て、次の試験で検討する材料となり得ます。
    • 変化が認められない場合は、曝露または標的関与の不足を含む複数の可能性を、検体採取時点や測定系の限界とともに検討します。
  • 事前仮説に含まれない仮説を探索できます
    • 単一または少数項目の測定では、未測定のタンパク質変化を直接評価できません。
    • 数千種類のタンパク質規模の測定により、代償経路、想定外の生物学的変化または適応可能性に関する仮説を探索できます。
  • 保存検体から追加の探索的知見が得られます
    • 主要評価項目の結果にかかわらず、詳細な臨床データと保存検体を有する試験では追加解析を計画できる場合があります。
    • ハイプレックス解析で得られた所見は、反応関連の特徴、経路または疾患サブタイプ、別適応に関する仮説を再検討する材料になり得ます。
  • 次の臨床試験設計につなげられます
    • プロテオーム解析の結果は、次の試験で測定する候補、採血時点または層別化仮説を検討する材料になります。ただし、患者選択・用量などの決定には追加根拠が必要となります。
    • この意味で、ハイプレックス・プロテオミクスは、適切に検証へ接続することで、次の開発仮説を支えるトランスレーショナル研究基盤となり得ます。
  • 臨床試験で利用する際の注意点
    • ハイプレックス・プロテオミクスの結果の解釈には、解析計画、多重検定、検体条件および因果推論の限界への注意が必要です。
  • 事後解析も含まれます
    • 試験終了後の保存検体解析では、解析計画が試験開始前に固定されていない場合があるため、探索的解釈が必要です。結果は仮説生成に有用であり、用途に応じて独立集団での再現、測定性能および臨床的有用性の検証が必要です。
  • 多重性への対応が必要です
    • 多数の種類のタンパク質を個別に同時検定する場合、名目有意差だけでは偶然の所見を含む可能性が高まります。多数の個別検定では、解析目的と事前規定に応じて、FDR制御、Bonferroni法、Holm法など多重検定への対応を検討する必要があります。
  • 相関だけでは作用機序を証明できません
    • 薬剤投与後の変化は治療に関連する所見であり、直接作用、標的関与または下流の二次変化を単独では区別しません。体重、臓器機能、炎症、併用薬または疾患活動性の変化などを介した二次的変化の可能性も、試験ごとに検討します。
  • 前分析条件が測定結果に影響します
    • 検体の処理遅延などの前分析条件は、タンパク質や測定法によって測定値への影響が異なります。採血管、保存温度、凍結融解、溶血、血小板混入の影響は、採用する測定系ごとに評価する必要があります。
    • 多施設試験では、採取・処理・保存の標準作業手順、逸脱管理および関連メタデータの記録が、前分析差の評価に重要です。
  • プラットフォーム名だけでは臨床的妥当性や有用性は決まりません
    • SomaScanまたはOlink Exploreで測定した事実だけでは、当該結果の臨床的妥当性、有用性またはカットオフ値の確立を意味しません。
    • 探索で得られた候補を臨床利用するには、意図する用途に応じて測定性能の確認、独立集団での再現、必要に応じた別法・カットオフ値の検討、臨床的妥当性・有用性の検証などが求められます。
  • Olinkでは製品系統の確認が必要です
    • 論文での「Olink」「PEA」「NPX」の記載だけでは製品系統を一意に特定できない場合があり、Explore系かTarget系かを判断できないことがあります。NPXはOlinkの相対的な出力単位であり、NPXという単位のみからTarget系またはExplore系を特定することはできません。
    • なお本稿では、製品名、パネル名、アッセイ数と解析対象数、読み出し法および測定法を確認し、確定できない場合は製品系統不明として扱っています。

今後の展望

ハイプレックス・プロテオミクスを臨床開発の意思決定や臨床で活用する場合には、探索所見を前向きまたは独立した検証へ接続することが重要となります。

用途に応じて、次の要素を組み合わせた検証計画を検討します。

  1. 数千種類のタンパク質規模の探索的解析から候補を見いだします。
  2. 治療関連のプロテオーム変化と、臨床効果、用量または薬物曝露との関係を探索的に評価します。
  3. (確認的な検証を行う場合)候補または多種類のタンパク質モデルを事前に固定します。
  4. 用途に応じて、独立した患者集団または試験で再現性を確認します。
  5. 必要に応じて少数項目のアッセイまたは固定済み多項目測定系への移行を検討します。
  6. 患者選択または治療モニタリングを目指す場合は、前向きな検証により臨床的有用性を評価します。
  7. 規制利用を目指す場合は、意図する用途に応じて分析性能、臨床的妥当性、必要に応じて臨床的有用性および規制上の根拠を構築します。

SomaScanまたはOlink Exploreは、この流れの上流にある包括的探索とモデル構築に適しています。Olink Targetなどの小規模パネルは、候補が絞られた後の確認や、前向きな臨床試験への組み込みに利用できる選択肢の一つです。

重要なのは、ハイプレックス解析を一度実施することではなく、探索所見を次の試験設計や検証計画へ接続し、患者層別化または薬力学評価への利用、あるいは臨床用アッセイとしての有用性を別途検証することです。

まとめ

本稿で確認した事例では、疾患関連の探索、治療関連のプロテオーム変化の解析、薬力学または作用機序に関する仮説の検討が行われています。

特に、STEP 1・STEP 2の統合解析、EMPEROR、DAPA-CKDなどの臨床試験由来検体を用いた研究では、1,000人規模の集団で千~数千種類のタンパク質を測定されており、薬剤投与に関連する広範なタンパク質変化が検討されています。

今回確認した代表的な事例では、治療関連変化を評価し、薬力学または作用機序に関する仮説を検討するLevel 3の利用が目立ちます。FUTURE 1~5のように治療反応予測へ進んだ研究もありますが、患者選択に実装するには、追加の独立検証、測定性能および臨床的有用性の根拠が必要です。プロテオーム解析計画がプロトコルや統計解析計画書に記載された公開例はありますが、事前規定の時期や実際の測定規模は、文書の版と内容に基づく確認が必要です。

また、Olink Target 96のような標的パネルは、仮説駆動型の臨床研究や候補確認に有用ですが、SomaScanやOlink Exploreによる広範なハイプレックス解析とは区別し、研究目的・測定規模・検証段階に応じて評価する必要があります。

本稿で確認した公開資料の範囲では、数千種類のタンパク質規模のハイプレックス・プロテオミクスのデータそのものを、規制上の代替エンドポイントとして扱った承認事例は特定できませんでした。しかし、単なる探索研究の枠を超え、薬剤作用に関する仮説、試験結果の解釈、治療反応予測候補または次の試験の検証計画を支えるトランスレーショナル研究基盤となり得ます。

本稿で確認した公開事例の範囲では、次のように表現できます。

臨床試験後の探索ツールにとどまらず、臨床開発で薬剤作用やバイオマーカー候補を評価するためのトランスレーショナル研究基盤としての活用が進みつつあります。一方、患者選択や承認判断に直接用いるためには、独立検証、測定標準化、モデル固定、臨床的有用性の証明が今後の課題です。