血漿GDF15が長期的な認知症リスクと神経免疫シグナルに与える影響

Blew CO et al. Sci Adv. 2026 Jun 26;12(26):eaec7614. doi: 10.1126/sciadv.aec7614. Epub 2026 Jun 26.

研究の背景と目的

認知症の病理変化は発症の数十年前から始まることが知られています。そのため、発症前の段階でリスクを把握できるバイオマーカーの開発が重要な課題です。GDF15(Growth Differentiation Factor 15)は加齢や炎症と関連する血中タンパク質であり、これまで認知症リスクとの関連が報告されていました。本研究では、血漿GDF15が認知症の予測マーカーであるだけでなく、認知症発症の仕組みに関与する可能性があるかを検証しました。

研究方法

米国ARIC、UK Biobank、AGES-Reykjavikなど6つの大規模コホートを用いて、数千~数万人規模の被験者を最大20年以上追跡しました。血漿タンパク質は主にSomaScan™ Assayで測定され、一部コホートでは他のプロテオミクス技術も用いられました。
さらに、MRI、脳脊髄液(CSF)プロテオーム解析、メンデルランダム化解析、培養マクロファージへのGDF15曝露実験を組み合わせ、GDF15と認知症の関連メカニズムを検討しました。

結果

血漿GDF15濃度が高い人は、測定時点から7~20年後の認知症発症リスクが有意に高いことが複数の独立コホートで確認されました。特に血管性認知症(VaD)との関連はアルツハイマー病よりも強く認められました。
また、高いGDF15値は脳萎縮、白質病変、小血管障害、リン酸化タウ(pTau181)や神経損傷マーカーNfLの上昇とも関連していました。一方で、アミロイドβとの関連は限定的でした。
脳脊髄液のプロテオーム解析では、GDF15の上昇が補体系、凝固系、IL-6/JAK/STAT3経路などの神経炎症関連シグナルと関連していました。さらに、ミクログリア活性化やインターフェロン応答に関連するタンパク質との相関も認められました。
培養マクロファージを用いた実験では、GDF15曝露によりインターフェロン応答、エネルギー代謝、ヘム代謝関連経路が変化しました。これらの経路は実際に将来の認知症リスクとも関連しており、GDF15が神経免疫系や代謝経路を介して認知症発症に影響する可能性が示されました。

考察

本研究は、GDF15が単なる加齢マーカーではなく、認知症リスクを早期に反映する血中タンパク質である可能性を示しました。特に血管性認知症や脳小血管障害との関連が強く、アルツハイマー病よりも血管性病態との結び付きが示唆されています。また、神経炎症や自然免疫応答に関連するプロテオーム変化が確認されたことから、GDF15は認知症リスク評価だけでなく、病態メカニズムの理解や新たな治療標的探索にも有用な可能性があります。今後は人種差や疾患サブタイプごとの検証が期待されます。

Information

本研究は、認知症の発症前リスクを血中タンパク質から捉え、候補分子GDF15の予測能と病態への関与を検証した、バイオマーカー探索・検証からメカニズム解析へ展開する研究です。SomaScan Assayは、ARICやAGES-Reykjavik、日本のNILS-LSAなどの長期追跡コホートで得られたプロテオームデータの解析に活用され、GDF15と将来の認知症リスクとの関連を複数集団で検証する基盤となりました。さらに約7,000タンパク質を対象とした血漿・脳脊髄液解析から、神経免疫や補体系などGDF15に関連する生物学的経路の探索にも活用されています。既存の大規模コホート/バイオバンク資産にプロテオーム情報を組み合わせ、疾患予測から病態理解へと研究を発展させた好例であり、日本の研究機関・企業も参画した国際共同研究という点でも注目される事例です。

COI:著者にフォーネスライフ社の社員が含まれます。

SomaScan Assayのことを短時間に理解できる資料を用意しました。