血液・唾液プロテオームから将来の心血管イベント発症リスクを捉える
Yousif G et al. Sci Rep. 2025 Feb 3;15(1):4056. doi: 10.1038/s41598-025-87596-2.

研究の背景と目的
心血管疾患は、心筋梗塞や脳卒中の原因となり、死亡や医療負担の大きな要因です。そのため、将来の心血管イベントの発症リスクが高い人を早期に見つけることが重要です。血液は全身の炎症や代謝の変化を反映しやすく、これまでバイオマーカー探索の中心となってきました。一方、唾液は痛みなく簡単に採取できます。本研究は、カタール人を対象に、血液と唾液のタンパク質を比較し、将来の心血管疾患リスクを示す指標を探すことを目的としました。
研究方法
対象は、Qatar Biobankに登録された18〜64歳のカタール人です。直近3か月以内に抗菌薬を使用した人や、胃食道逆流症、クローン病、甲状腺疾患、がんなどの慢性疾患がある人は除外されました。被験者は、今後10年以内に心筋梗塞を起こすリスクを推定したCardiovascular disease risk score(CVDリスクスコア、心血管疾患リスクスコア)で分類され、10未満を低リスク群、20超を高リスク群として各50人を抽出しました。各被験者から同日に血漿と唾液を採取し、SomaScan™ Assayで1,317種類のタンパク質を測定しました。解析では、Uniform Manifold Approximation and Projection(UMAP)で年齢とBody Mass Index(BMI)の影響を確認し、Linear Models for Microarray Data(limma)でそれらを補正したうえで群間差のあるタンパク質を抽出しました。さらに、Gene Ontology(GO、遺伝子オントロジー)解析で関連する生物学的機能を調べ、機械学習で高リスク群と低リスク群の判別に役立つ候補を評価しました。
結果
高リスク群では、血漿で207種類、唾液で94種類のタンパク質に有意差がみられ、このうち変化量が大きかったものは血漿44種類、唾液25種類でした。血漿と唾液の両方で共通して高リスクと関連した候補は8種類あり、Plexin B2(PLXNB2)、LDL receptor-related protein 1B(LRP1B)、GDNF Family Receptor Alpha 1(GFRA1)、acid phosphatase 5, tartrate resistant(ACP5)、Chemokine (C–C motif) ligand 15(CCL15)、Complement Component 1, R Subcomponent(C1R)は両方で増加し、proteasome activator subunit 3(PSME3)は両方で減少しました。kallikrein 5(KLK5)は血漿で低下し、唾液で上昇しました。機械学習では、代表的な高性能モデルで、血漿は平均AUC 0.8超、唾液も平均AUC 0.7超の判別性能を示しました。予測への寄与が大きかった候補は、血漿ではLRP1B、PLXNB2、CCL15、唾液ではC1R、LRP1B、PLXNB2でした。GO解析では、高リスク群で免疫応答と細胞外マトリックス関連の変化が強く示されました。
考察
本研究は、唾液でも心血管疾患リスクに関連するタンパク質変化を捉えられることを示しました。唾液は血液より検出数は少ないものの、非侵襲で採取しやすく実用的な価値があります。一方で、対象者数が少なく、カタール人に限られるため、今後は多民族・大規模集団での検証が必要です。

