脳脊髄液・血漿・尿プロテオームによる早期パーキンソン病指標の探索

Rutledge J et al. Acta Neuropathol. 2024 Mar 11;147(1):52. doi: 10.1007/s00401-024-02706-0. 

cropped view of senior man with parkinson disease holding walking cane while sitting on couch at home,stock image

研究の背景と目的 

パーキンソン病は、黒質のドパミン神経の障害やαシヌクレイン凝集が、運動症状が現れるかなり前から進む神経変性疾患です。しかし現状では、早期診断、重症度評価、進行予測、治療効果判定に十分使える分子マーカーは限られています。脳脊髄液のαシヌクレインシード増幅検査は有望ですが、腰椎穿刺が必要で、重症度や進行を直接反映しにくいという課題があります。そこで本研究は、脳脊髄液、血漿、尿のプロテオームを大規模に解析し、早期パーキンソン病、前駆期、遺伝的リスク保持者を捉える新しい指標を見つけることを目的としました。 

研究方法 

対象は7コホート、計4,877検体です。中心となるStanford-5xは、米国スタンフォード大学の5つの老化・神経変性研究を統合したコホートで、40〜90歳の健常者、パーキンソン病、アルツハイマー病スペクトラム例を含みます。早期パーキンソン病は、脳脊髄液採取時点で診断後3年未満と定義されました。外部検証には、国際観察研究Parkinson’s Progression Markers Initiative(PPMI)を用い、前駆期はドパミントランスポーター画像で低下がみられる状態(DAT deficit)を伴う、60歳以上のREM睡眠行動異常症または嗅覚低下の参加者でした。DAT deficitは、黒質‐線条体ドパミン神経の障害を反映する画像所見で、まだ典型的な運動症状が明確でない段階でも、パーキンソン病に近い変化が進んでいる可能性を示します。 

解析には、Olink proximity extension assay、SomaScan™ Assay、LC–MS/MSの3手法を用いました。SomaScan™ Assayでは、Stanford-5xのCSF 385検体で4,979種類、血漿1,164検体で7,288種類のタンパク質を測定しました。統計解析では、群間の差次解析、年齢・性別補正下での症状との回帰解析、ロジスティック回帰による診断性能評価、ROC曲線とAUC(Area under the curve)による判別能評価を行い、縦断データは線形混合効果モデルで評価しました。症状との関連では、MDS-UPDRS III(Movement Disorders Society–Unified Parkinson’s Disease Rating Scale part III)を用いました。これは、振戦、筋強剛、動作緩慢、姿勢保持、歩行などの運動症状の重さを医師が診察で点数化する評価尺度で、パーキンソン病の運動症状の重症度をみる代表的な指標です。 

結果 

複数の体液と測定法を通じて、早期パーキンソン病で多数のタンパク質変化が見つかりました。中でも最も一貫して有望だったのがDDC(DOPA decarboxylase、別名AADC)で、ドパミン合成の最終段階を担う酵素です。DDCは、治療未開始のde novo PD、前駆期、LRRK2またはGBA変異の非発症保有者で、脳脊髄液と尿を中心に一貫して上昇しました。特に前駆期では、DAT deficitを伴うREM睡眠行動異常症または嗅覚低下の群で脳脊髄液DDCが高く、運動症状がはっきり現れる前の段階から変化している可能性が示されました。 

また、脳脊髄液DDCはMDS-UPDRS IIIと有意に関連しました。つまり、医師が診察で評価した運動症状の重さが大きいほど、脳脊髄液中のDDCも高い傾向がみられました。診断性能では、脳脊髄液DDCを用いたロジスティック回帰で、Stanford-5xのPD対健常者で AUC 0.88、独立コホートPPMIでもAUC 0.80を示し、前駆期でもAUC 0.79でした。一方、血漿DDCはStanford-5xでは有望でしたが、PPMIではAUC 0.59にとどまり、薬剤影響を受けやすい可能性が示されました。 

DDC以外では、SUMF1、DPP7、ENPEP、WFDC2なども候補として挙がりました。SUMF1は全スルファターゼ酵素の活性化に関わる因子です。DPP7(dipeptidyl peptidase 7)は、免疫細胞の静止状態に関わることが知られ、尿ではDDC以上に強い効果を示しました。glutamyl aminopeptidaseであるENPEP、分泌性タンパク質のWFDC2(WAP four-disulfide core domain 2)は、いずれも尿で有望でした。さらに尿では、JPH3、GLB1なども一貫して変化し、非侵襲的検査としての可能性が示されました。 

考察 

本研究は、早期パーキンソン病の分子変化を脳脊髄液、血漿、尿という複数の体液で横断的に示した点に意義があります。特にDDCは、ドパミン代謝と直接つながるため病態との整合性が高く、前駆期から変化し、重症度とも関連する有望な指標です。一方で、血漿では薬剤の影響を受けやすく、検体ごとの特性を踏まえた使い分けが必要です。今後は、さらなる独立コホートでの再現と、進行予測や治療反応指標としての検証が重要です。 

Information

本研究におけるSomaScan™ Assayの位置づけは、候補を絞らずに大規模な探索を行う基盤技術である点です。脳脊髄液で4,979種類、血漿で7,288種類を一度に測定できたことで、DDCやSUMF1を含む有望候補を幅広く抽出し、OlinkやLC–MS/MSとの交差検証につなげることができました。SomaScan™ Assayは、早期パーキンソン病の多検体・多手法比較において、探索の出発点として重要な役割を果たしたといえます。

COI:開示すべき利益相反はありません。 

SomaScanTM Assay についてご依頼、お見積り、技術的な説明、営業説明を希望される方はこちらをクリックください。