髄液プロテオームでみるアルツハイマー病の進行 

Ali M et al. Neuron. 2025 May 7;113(9):1363-1379.e9. doi: 10.1016/j.neuron.2025.02.014.

研究の背景と目的 

アルツハイマー病では、症状が出る前から脳内で変化が進むことが知られています。髄液中のタンパク質を広く調べることで、病気の進行に伴う分子変化を詳しく捉えられる可能性があります。本研究は、複数コホートの髄液プロテオームを統合し、アルツハイマー病の進行に沿った共通の分子変化と、新たな診断候補を明らかにすることを目的としました。 

研究方法 

本研究では、Knight Alzheimer Disease Research Center(Knight ADRC)、Fundació ACE Alzheimer Center Barcelona(FACE)、Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)、Barcelona-1 の4コホートから集めた髄液(CSF)2,286検体を対象に、SomaScan™ Assay 7Kで7,029の測定項目(アプタマー)を解析しました。参加者は、アミロイドβ(A)とリン酸化タウ(T)の状態で分類しました。まず、Knight ADRC と FACEで候補タンパク質を抽出し、次に ADNI と Barcelona-1 で再現性を検証しました。その後、両段階をまとめてメタ解析を行いました。さらに、Stanford Alzheimer’s Disease Research Center(Stanford ADRC)という、発見にも再現確認にも使っていない別集団で追加検証を行い、得られた結果や予測モデルが他の集団でも成り立つかを確認しました。加えて、臨床診断やアミロイドPET、タウPETとの関係も調べました。本研究におけるSomaScan™ Assayは、髄液中の多数のタンパク質変化を一度に捉え、候補探索から再現確認、予測モデル構築までを支える基盤技術です。 

結果  

メタ解析の結果、アルツハイマー病に関連する2,173の測定項目が同定され、これは2,029種類のタンパク質に対応していました。これらのうち865種類(43%)は先行研究でも報告されていましたが、1,164種類(57%)は新規の所見でした。さらに独立コホートで検証したところ、タンパク質変化の向きと統計学的な強さは高い一致を示し、今回の結果が再現性の高いものであることが確認されました。加えて、これらの変化は髄液バイオマーカーだけでなく、臨床診断やアミロイドPET、タウPETともよく対応していました。 

また、候補の中から、機械学習により10タンパク質パネルが選ばれました。このモデルは、髄液バイオマーカー陽性群と陰性群を非常に高い精度で判別し、臨床診断やアミロイドPET陽性の予測にも良好な性能を示しました。一方で、レビー小体型認知症や前頭側頭型認知症、パーキンソン病では判別性能が低く、アルツハイマー病に比較的特異的なシグネチャーであることが示されました。さらに、認知機能が保たれていた人でも、この10タンパク質シグネチャーで陽性と予測された人は、その後アルツハイマー病を発症する確率が高く、すでに発症している人では記憶機能の低下もより速いことが分かりました。 

病期に沿ってタンパク質変化をみると、変動パターンは4つのグループに分かれました。第1群は病初期から一貫して増加し、神経細胞死、アポトーシス、タウのリン酸化異常に関連していました。第2群は中間段階で高まり、その後低下するパターンを示し、ミクログリア異常やエンドリソソーム系の障害、炎症・免疫応答と関係していました。第3群は進行に伴って減少し、脳の可塑性や長寿関連経路など、障害に対する代償機構を反映している可能性が示されました。第4群は後期で再び増加し、ミクログリアと神経細胞の相互作用に関わる経路が多く含まれていました。これらの結果から、アルツハイマー病では病期ごとに異なる分子異常が段階的に生じていることが明らかになりました。 

考察 

本研究は、アルツハイマー病では単一の異常ではなく、神経変性、免疫反応、細胞間相互作用など複数の変化が段階的に進むことを示しています。髄液は脳の変化を反映しやすく、病態理解や早期診断に有用です。特に大規模解析により、従来見逃されていた新規タンパク質や経路が明らかになった点は重要です。 

Information

SomaScan™ 11K Assayは、11,000項目超を一度に測定できるため、病態全体を広く見渡しながら、再現性の高い候補を抽出できる点が強みです。本研究でも、新規タンパク質の同定、進行段階ごとの変化の整理、10タンパク質モデルの構築までを一つの測定基盤で進められました。 (本研究では、SomaScan 7K Assayが使用されています)

COI:開示すべき利益相反はありません。 

Success

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