脳の若返り因子は認知症の進行を左右するか
Casaletto KB et al. Brain Commun. 2025 Jan 15;7(1):fcae432. doi: 10.1093/braincomms/fcae432.

研究の背景と目的
認知症の最大のリスク因子は「加齢」です。動物を用いた研究では、若い動物の血液に含まれる成分が新しい神経細胞が生まれる働き(神経新生)を促し、学習や記憶にも良い影響を与える可能性が示されています。反対に、高齢の動物の血液では神経新生が減り、学習や記憶が低下すると報告されています。こうした結果から、血液中の特定のタンパク質が「脳の老化を進めたり、抑えたりする要因」になり得ると考えられてきました。そこで本研究では、これまでに若返りや老化との関連が指摘されてきた“脳の若返りに関わる候補因子”が、ヒトにおいても認知症の病状の進み方と関係するかを確かめることを目的にしました。
研究方法
対象は、①遺伝性前頭側頭型認知症(Frontotemporal dementia:FTD)の原因となる遺伝子変異を持つ被験者119名と、変異を持たない健常の対照被験者78名、②孤発性アルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD:遺伝子変異が明確でない、一般的にみられるタイプ)の患者35名と対照被験者56名です。脳脊髄液で5つのタンパク質(CCL11、CCL2、B2M、CSF2、BGLAP)を測定し、5因子を同じ重みで合算した「若返り複合スコア(高いほど“若い”方向)」を作成しました。FTDでは最長7年にわたり経過を追って変化を調べ、ADでは横断的に、認知機能、日常生活の障害度、神経変性マーカーである神経フィラメント軽鎖(Neurofilament light chain:NfL)との関係を解析しました。
結果
FTDでは、変異保有者の複合スコアが非保有者より低く、病気リスクが高い状態ほど“若返り因子のバランス”が崩れている可能性が示されました。
さらにFTD変異保有者では、ベースラインの複合スコアが高い人ほど、その後の低下が緩やかでした。具体的には、複合スコアが低い群に比べて高い群は、認知低下が約8倍遅く、日常生活機能の悪化が約2.6倍遅く、NfL上昇も約3.4倍緩やかでした(5年間推定)。
この傾向は、症状が出ていない変異保有者だけに絞っても同程度で、将来リスクが高い段階から関係する可能性が示唆されました。
また、遺伝子タイプ(C9orf72/GRN/MAPT)で効果が大きく変わる明確な差はなく、疾患タイプをまたぐ共通性が示されました。
孤発性ADでも同様に、複合スコアが高いほど認知機能と生活機能が良く、NfLが低いという関係が見られ、対照群ではその関係が弱まりました。
5因子を単独で見るより、まとめた複合スコアの方が結果が安定しており、因子同士の“組み合わせ”を捉える意義が示されました。
考察
本研究は、動物で見つかった「若返り関連因子」が、ヒトのFTDやADでも病状の進行指標と結びつく可能性を示しました。特に、症状が軽い/出ていない段階でも関連がみられた点は、早期のリスク評価や介入標的の検討に役立つ可能性があります。一方で観察研究のため、因子が原因なのか結果なのかは今後の検証が必要です。
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