喫煙による体重変化とGDF15/受容体RETの役割
Tinworth AC et al. EBioMedicine. 2025 Jul:117:105806. doi: 10.1016/j.ebiom.2025.105806.

研究の背景と目的
喫煙者は体重が低い一方、禁煙後は体重が増えやすく、禁煙の妨げになることがあります。こうした体重変化の背景には、体のストレス応答や食欲調節に関わる仕組みが影響している可能性があります。そこで本研究は、ストレスなどで増えるタンパク質GDF15(Growth/Differentiation Factor 15:増殖・分化因子15)に注目しました。GDF15は、脳に作用して食欲を抑え、体重を下げる方向に働くことが知られています。
この作用は、脳の受容体GFRAL(GDNF family receptor alpha-like)への結合をきっかけに起こり、同じ細胞膜上でRET(Proto-oncogene tyrosine-protein kinase receptor Ret:受容体型チロシンキナーゼRET)が“相棒(共受容体)”として一緒に機能することが必要です。こうしたGDF15–GFRAL–RETの仕組みが、喫煙と体脂肪(肥満度)の関係をどの程度説明できるかを調べました。
研究方法
中国の大規模追跡研究CKB(China Kadoorie Biobank:中国Kadoorieバイオバンク)の参加者3,936人の血漿を用い、GDF15とGFRALおよび共受容体RETを、2つのプロテオーム解析で測定しました(Olink Explore、SomaScan™ Assay)。
体格はBMI(Body Mass Index:体格指数)や腹囲などで評価し、まず観察研究として「喫煙状況(現在喫煙している人・過去に喫煙していた人・喫煙経験がない人)と各指標の関係」を統計解析しました。
さらに因果関係に近づくため、MR(Mendelian randomization:メンデルランダム化)を実施しました。ここでの「喫煙の強さ」は、GWAS(Genome-wide association study:ゲノムワイド関連解析)で見つかった“喫煙行動と関係する遺伝子の違い(遺伝子多型)”を手がかりに、たとえば「1日に吸う本数」などの喫煙強度を遺伝学的に推定した指標として扱います。つまり、GWASで特定された「喫煙強度に結びつく遺伝子多型」を“原因側(喫煙強度)”の代理(操作変数)として用い、その遺伝的な違いがGDF15や体格指標(BMIなど)にどのように結びつくかを調べることで、「喫煙の強さがGDF15や体格に影響する可能性」を検証しました。
結果
体格の違い
現在喫煙している者は非喫煙者よりBMIが低く、元喫煙者(禁煙者)はBMIが最も高い傾向でした(例:23.1、24.0、24.6)。腹囲、腹囲/臀囲比、体脂肪率でも同じ流れが見られました。
GDF15の増加
喫煙はGDF15の上昇と関連し、特に「測定した当日に吸った本数」が多いほどGDF15がはっきり上がりました(吸う本数が増えるほど段階的に上がる“用量反応”)。
“比”が示した手がかり
GDF15単独よりも、GDF15/RET比(GDF15をRETで割った指標)のほうが、喫煙と肥満指標の関係をより安定して説明しました(2つの測定法で一貫)。つまり「GDF15がどれくらい効きやすい状態か」を、受容体とのバランスで捉えると分かりやすい可能性があります。
原因に近い検証(MR)
遺伝的に推定した喫煙強度は、東アジア集団でBMI低下と関連し、東アジア・欧州の両方でGDF15上昇と関連しました。喫煙がGDF15を押し上げる可能性を支持します。
媒介(メディエーション)解析
SomaScan™ Assayで測定したGDF15は、喫煙と各肥満指標(BMI、腹囲、体脂肪率など)の関連を“部分的に”仲介しました。一方、GDF15/RET比は両プラットフォームでより頑健に仲介しました。
考察
喫煙はGDF15を増やし、 GDF15が脳に作用して食欲を抑えることで、体重や体脂肪が低い方向に働く可能性が、人の観察データと遺伝学的解析で示されました。特にGDF15/RET比が安定して仲介効果を示した点は、「GDF15の量」だけでなく「受容体との釣り合い(効きやすさ)」を見る重要性を示します。この仕組みは、禁煙時の体重増加を抑える新しい標的の候補にもなり得ます。
COI:開示すべき利益相反はありません。
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