長期保存された血液から、男女の違いや加齢の影響を読み解く

多くのバイオバンクでは、血液や血清サンプルを長期間冷凍保存し、後のオミクス解析に利用しています。しかし、保存期間の長さがタンパク質の測定に与える影響については十分に検証されていません。特に、性差による血中タンパク質の変動は、心血管疾患やアルツハイマー病など加齢関連疾患の発症や進展に関与することが知られており、東アジア人集団における特徴は不明です。本研究の目的は、16年間保存された血清サンプルを用いてSomaScan®プロテオミクス解析が可能かを検証するとともに、日本人高齢者における血清タンパク質の性差を明らかにすることです。
本研究は、Kita-Nagoya Genomic Epidemiology(KING)スタディ参加者から抽出された被験者を対象とした観察研究です。2007年に採血され、−80℃で約16年間保存された血清を使用しました。対象は50歳以上の日本人男女40名(男性20名、女性20名、平均年齢64.9歳)であり、以前にELISA法でアディポネクチンおよびレジスチンが測定されていた集団から年齢をマッチさせて選定しました。
血清中のタンパク質は、アプタマー(SOMAmer)技術を用いた多重親和性プロテオミクス解析プラットフォームであるSomaScan v4.1(SomaLogic社)により定量しました。7,289種類のヒト由来タンパク質を対象に、保存期間の影響を評価するため、過去にELISAで測定されたアディポネクチンおよびレジスチン濃度との相関を解析しました。さらに、年齢調整を行った線形回帰モデルにより、男女間でのタンパク質濃度の差異を探索しました。
サンプル品質の検証: 過去のELISA測定値とSomaScan測定値の間でアディポネクチンは極めて高い相関(rs=0.920)、レジスチンも高い相関(rs=0.713)が認められ、長期保存サンプルでも測定の信頼性が保たれることが示されました。
性差の解析: 20種類の血清タンパク質で有意な性差が検出されました。特に、女性ではゴナドトロピン関連ホルモン(CGA|FSHB、CGA|CGB3|CGB7、CGA|LHB)の濃度が男性の2倍以上高いことが明らかとなりました。一方、男性ではβ-ディフェンシン104(DEFB104A)、MMP3、PSA/KLK3などが有意に高値を示しました。
年齢との関連: 有意差を示したタンパク質の一部では、年齢との関連も確認され、特に神経接着分子NTMや免疫関連タンパク質VSIG4が加齢と関連していました。
本研究は、SomaScan®の広範なプロテオーム解析能力により、長期凍結保存サンプルでも有用なデータ取得が可能であることを初めて示しました。また、サブユニットではなく生物学的に活性を持つゴナドトロピンのヘテロ二量体を特異的に捉えることができ、性差解析の精度と解釈を高めました。これにより、バイオバンクに保存された長期サンプルを活用した将来的研究の可能性が大きく広がったといえます。


