血漿OMGで捉える「神経変性に強い脳」―大規模プロテオミクス研究
Duggan MR et al. Mol Neurodegener. 2026 Jan 5;21(1):9. doi: 10.1186/s13024-025-00921-1.

研究の背景と目的
アルツハイマー病などの認知症は、脳の変化が長い年月をかけて進む一方で、将来の発症リスクを早い段階で捉える手がかりは十分ではありません。本研究は、血液などから測定できるタンパク質を手がかりに、「神経変性の影響を受けにくい状態(レジリエンス)」に関わる分子を見つけ、認知症や関連疾患との関係を確かめることを目的としました。
研究方法
北米・欧州・アジアの計16コホートのデータを用い、血漿、脳脊髄液(CSF:cerebrospinal fluid)、脳組織など複数の試料でプロテオミクス解析を行いました。測定には主に SomaScan™ Assay、Olink、質量分析などを用いました。コホートごとに統計解析を行い、そのうえで結果の一貫性を確認しました。
結果
まず、脳に特徴的に存在するタンパク質であるオリゴデンドロサイト・ミエリン糖タンパク質(OMG:oligodendrocyte myelin glycoprotein)に注目しました。その結果、血漿中のOMG量(測定値)が高い人ほど、脳に沈着するアミロイドβ(Aβ)が少ない傾向がみられました(Aβ沈着と逆相関)。また、認知症や多発性硬化症ではOMG量が低い傾向が確認されました。
認知症との関連では、追跡研究により、血漿中のOMG量が高いほど将来の認知症発症リスクが低いことが示されました。Atherosclerosis Risk in Communities(ARIC)研究では、中年期のOMG量が高い人は低い人に比べて、その後約20年間の認知症発症リスクが低く(ハザード比(HR:hazard ratio)=0.78)、高齢期でも同様に発症リスクが低い(HR=0.85)ことが示されました。
さらに、Aβ42/40、pTau-181、神経線維軽鎖(NfL:neurofilament light chain)などの既存の血漿バイオマーカーで調整しても、OMG量と認知症発症リスクの関係は大きく変わりませんでした。一方、グリア線維性酸性タンパク質(GFAP:glial fibrillary acidic protein)を加えると関連が強まる解析も報告されており、OMGが別の側面の情報を補っている可能性があります。
CSFではSomaScan™ Assayデータ(7,039ターゲット)を用いて、CSF中のOMGと一緒に増減するタンパク質群を調べました。複数コホートで一貫して関連する770タンパク質(FDR:false discovery rate<0.05)が見つかりました。これらは、軸索やシナプスの健全性、細胞同士の接着、タンパク質の品質管理(オートファジーなど)に関わる仕組みと関連するものが多いことが示されました。
遺伝学的解析(二標本メンデルランダム化)では、遺伝情報を手がかりに、「OMG量が高いこと」が複数の神経変性疾患に対して保護的に働く可能性が支持されました。たとえば、アルツハイマー病、パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS:amyotrophic lateral sclerosis)、レビー小体型認知症などで、オッズ比が低下する方向の結果が示されています。
以上から、OMGは神経変性の影響を受けにくい状態(レジリエンス)を支える仕組みに関わる候補分子であり、その情報は血漿中のOMGから比較的捉えやすい可能性があると結論づけられています。
考察
OMGは髄鞘(ミエリン)に関わる脳由来タンパク質で、血漿中のOMG量(測定値)が高い人ほど、長期的に認知症発症リスクが低い傾向が示されました。単一のタンパク質でも、大規模データで一貫して将来の発症リスクに関わる情報を示せた点は重要です。ただし、日本コホートでは関連が確認できないなど集団差もあり、実用化には追加の検証が必要です。
本研究では、複数コホート、長期追跡、複数試料で同じターゲット(OMG)を横断的に評価しています。その中で SomaScan™ Assayは、血漿やCSFを対象に、多数のタンパク質をまとめて測定できる点が特長です。これにより、OMG単独の検証に加えて、OMGと一緒に変動するタンパク質群(シグネチャ)を見つけ、背景の仕組みまで掘り下げて解析できます。さらに、盲検重複試料で変動係数(CV)が3.5%(BLSA)、4.0%(ARIC Visit 2)とされ、再現性の裏づけも示されています。
COI:著者にフォーネスライフ株式会社の社員が含まれます。
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