メンデルランダム化(MR)で検証した血漿プロテオームと大腸がんリスクの因果関係

Pan ZK et al. Clin Proteomics. 2025 Jun 4;22(1):24. doi: 10.1186/s12014-025-09545-5.

研究の背景と目的 

大腸がんは、進行や転移がみられる段階では治療が難しくなることがあるため、新しい治療標的の探索が求められています。本研究では、遺伝子の違いから推定される血中タンパク質量が大腸がんの発症リスクに関わるかを、メンデルランダム化(MR:遺伝情報を使って因果関係を推定する方法)で体系的に調べました。さらに、候補となったタンパク質について、副作用の手がかりになりうる関連がないかも幅広く確認することを目的としました。 

研究方法 

本研究では、既存のGWAS(大規模遺伝子解析)データを用い、血中タンパク質量に関するGWASと、大腸がんに関するGWASという別々の大規模データを組み合わせて、MR解析を行いました。血漿タンパク質側のデータは、FinnGenのOlink(2,925種/619例)とSomaScan™ Assay(7,596種/828例)、およびIceland deCODE(4,907種)を利用しました。大腸がん側はUK Biobank-SAIGE(UKバイオバンクの遺伝子データを、症例・対照数の偏りなどに配慮できるSAIGEで解析、症例3,051・対照382,756)を用いました。主にcis-pQTL(遺伝子近傍の変異)を用いてMR解析を行い、その後、共局在解析(同じ原因変異の可能性の検討)と、783形質でのPhe-WAS(多数の病気・体質との関連を一括で調べる解析)により、潜在的な副作用の手がかりも評価しました。 

結果

  • MR解析(FDR:False Discovery Rateを補正後)で、4つの血漿タンパク質が大腸がんリスクと有意に関連しました。GREM1(Gremlin 1, DAN Family BMP Antagonist、Odds Ratio:OR=1.184)、DKKL1(Dickkopf Like Acrosomal Protein 1、OR=1.07)、CHRDL2(Chordin Like 2、OR=1.389)は、遺伝情報から推定される血中濃度が高いほど大腸がんの発症リスクが高い方向でした(ORは、血中濃度が高い側で発症のオッズが何倍になるかを示し、1より大きいほどリスク上昇を意味します)。一方、TMEM132A(Transmembrane Protein 132A)は血中濃度が高いほどリスクが下がる(保護的)方向で、OR=0.857でした。 
  • 共局在解析では、タンパク質量(pQTL)と大腸がん(GWAS)の関連シグナルが、同じ遺伝子領域で同一の原因変異に由来するかをベイズ統計で評価し、仮説ごとの事後確率(PPH)を算出しました。PPH3は「両者は関連するが原因変異は別」、PPH4は「両者が同じ原因変異を共有」を表します。本研究では4タンパク質すべてでPPH3+PPH4>0.7)となり、少なくとも70%以上の確率で同一領域に“実際の関連シグナル”があることが示されました。ただし、この指標だけで「共有」と断定はできず、共有の可能性はPPH4の大きさ(PPH3との内訳)を見て判断します。こうした結果から、単なる相関にとどまらず、遺伝学的な裏付けを伴う関与が示唆されました。 
  • Phe-WASでは、4タンパク質は他の表現型と一部関連が見られたものの、著者らは重大な安全性上の懸念(明確に有害な影響)は示されなかったと結論づけています。 

考察 

MRは遺伝的変異のランダムな割り付け(メンデルの法則)を利用することで、生活習慣などの影響を受けやすい観察研究よりも因果の手がかりを得やすい方法です。本研究は血漿タンパク質を幅広く調べ、リスク上昇に関わる候補3種と、リスク低下に関わる候補1種を示しました。今後は実験や臨床で、治療標的として本当に有効かを検証することが重要です。 

本研究では、血漿タンパク質のpQTLデータ源の一つとしてSomaScan™ Assayが用いられました。7,596種(828例)という大規模データにより、候補タンパク質を広く拾い上げる探索(仮説生成)を支えています。多数のタンパク質を同時に扱えるため、既知の標的に偏らずに候補を洗い出せる点が強みです。 

COI:開示すべき利益相反はありません。 

SomaScanTM Assay についてご依頼、お見積り、技術的な説明、営業説明を希望される方はこちらをクリックください。