加齢・認知機能障害で変わるCSFと血漿タンパク質のバランス
Farinas A et al. Nat Med. 2025 Jul 15;31(8):2578–2589. doi: 10.1038/s41591-025-03831-3.

研究の背景と目的
脳脊髄液(CSF)と血漿の間には、バリア機能を担う血液脳関門(BBB)などが存在し、タンパク質の透過性を調整しています。加齢や認知機能障害によって、これらの透過性がタンパク質ごとにどのように変化するのかを調べました。
研究方法
被験者計2,171名(健常931名、認知機能障害など1,240名)について、同一被験者よりCSFと血漿をそれぞれ採取し、SomaScan™ Assayでタンパク質を測定しました。CSFと血漿の両方で安定して検出された2,304種類について、「CSF中濃度÷血漿中濃度(CSF/血漿比)」を算出し、年齢・性別・認知機能との関連を解析しました。あわせて、一部でGWAS(遺伝子関連解析)も実施しました。
結果
健康被験者のCSFについて、脳の外で作られるタンパク質が多数(742種)含まれていました。血漿とCSFの双方で同時に検出されるものもあり(例:レプチン)、単なる「漏れ」ではなく、特定のタンパク質を介して選択的に輸送される可能性が示されました。加齢について、CSF/血漿比が上昇するタンパク質が848種、減少するものが64種でした。補体・凝固系やケモカイン、神経変性に関与するタンパク質(NEFLなど)の増加が確認され、バリア機能の変化は一律ではなく、タンパク質ごとに異なることが示されました。また、認知機能障害について、多くのタンパク質は一律に変化することはなく、増加するものが12種に対し減少するものが23種でした。とくに血管透過性マーカーであるフィブリノゲンは、認知機能障害の進行とともにCSF/血漿比が上昇することが確認され、バリア機能低下と神経変性との関連が示唆されました。一方、DCUN1D1、MFGE8、VEGFAは、CSF/血漿比が高いほど認知機能が保たれやすく、認知機能障害が進むほど低下する傾向が複数コホートでも確認されました。遺伝解析では、241種のCSF/血漿比に関連する320個の遺伝子座(QTL)を同定しました。さらに、輸送に関わり得る仕組みの手がかり(例:FCN2)も得られました。
考察
加齢に伴い、多くのタンパク質でCSF/血漿比が上昇していることから、バリア機能の変化や排出システムの低下が見られることが示唆されました。一方、認知機能障害において、CSF/血漿比は一律に上昇するわけではなく、バリア機能の調節程度による差や性差、保護的に働くタンパク質が存在すると考えられました。さらに、CSF/血漿比に影響する遺伝要因も見いだされ、今後のバイオマーカー探索や創薬標的の検討に有用と考えられます。
SomaScan™ Assayを用いることで、同一被験者のCSFと血漿で数千種類のタンパク質を一括で測定し、2,304種類の「CSF/血漿比」を作成できたことが本研究の基盤です。単一の指標では見えにくい変化を幅広く捉え、その結果を遺伝解析にもつなげられました。
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