血漿タンパク質2,923種からIBD発症リスクと原因候補を同定
Zhang X, et al. Nat Commun. 2025;16:2813. doi:10.1038/s41467-025-57879-3.

研究の背景と目的
炎症性腸疾患(IBD:クローン病[CD]、潰瘍性大腸炎[UC])は再燃を繰り返しやすく、早期に気づく手がかりや新しい治療標的が求められています。本研究は、IBD発症前の血液中タンパク質を幅広く調べ、将来の発症リスクと「原因に近い候補分子」を見つけることを目的としています。
研究方法
UK Biobank Pharma Proteomics Project(UKB-PPP)の参加者を対象に、Olink(Olink Explore)で血漿タンパク質2,923種を測定し、追跡調査でのIBD新規発症との関連をCox比例ハザード回帰(Cox回帰)で評価しました(多数の比較はFDRで補正)。そのうえで、タンパク質量に関わる遺伝子変異(cis-pQTL)を使ったメンデルランダム化(MR:遺伝子の違いを利用して因果関係を推定する手法)により、「タンパク質の変化がIBDに先行する可能性(因果の可能性)」を検討しました。さらに、Steiger解析で因果の向きを確認し、共局在解析で同じ遺伝子領域がタンパク質と疾患の両方に関わるかを確かめました。
※SomaScan™ Assayは、deCODE/Fenlandのデータを用いたMRの再現解析として利用し、別の測定プラットフォームでも同じ結論(効果の向き)が得られるかを確認する位置づけです。
結果
追跡期間中のIBD新規発症例は336例であり(内訳:CD125例、UC232例)、発症と有意に関連するタンパク質はIBDで673種、CDで295種、UCで125種でした。時間経過で見ると、採血後2年以内に診断された症例では関連タンパク質が多く、早期検出の指標(前触れ)になり得る一方、採血から6年以上経過後のIBD発症についても250種が有意に関連し、より病気の成り立ち(病因)に近い可能性が示されました。
リスク予測モデルでは、従来のリスク因子にタンパク質上位10種を加えることで、統合モデルの予測精度(AUC)が0.62から0.68に向上しました。遺伝学的解析(MR)では、因果的関与が示唆されたタンパク質がIBDで18種、CDで6種、UCで4種見つかりました(重複を除くと計22種)。特に8種(IL-12B、CD6、MXRA8、CXCL9、IFNG、CCN3、RSPO3、IL-18)は裏付けが強い主要候補でした。多くは「血中濃度が高いほどリスク上昇」の傾向(例:IL-12B、CD6、CCL20、IL-18など)で、MXRA8やITGAVは高いほどリスク低下の傾向でした。
腸粘膜の単一細胞解析では、CCL20(マクロファージ/T細胞)、CD6(T細胞)、CXCL9(マクロファージ)、IL-18(上皮細胞)などで、候補タンパク質をコードする遺伝子の発現が被験者で高いことが示されました。SomaScanTM Assayを用いた再現解析でも、利用可能な主要候補で効果の向きが一致しました。
考察
発症前の大規模プロテオーム解析と遺伝学を組み合わせることで、「関連がある」だけでなく「原因に近い」候補を絞り込めた点が重要です。既存標的(例:IL-12B、IFNG、IL-18)に加え、新規候補(例:CD6、MXRA8、CXCL9、CCN3、RSPO3)も示され、創薬や早期介入の手がかりになります。ただし、本研究は主に欧州の被験者が対象であるため、他集団での検証や臨床試験が今後の課題です。
本研究は、SomaScan™ Assayで測定された大規模pQTL(deCODE:4,907アプタマー/35,559人、Fenland:4,775アプタマー/10,708人)を使ってMRを再実行し、クロスプラットフォーム再現を行えました。これは、SomaScan™ Assayだからこそ利用できる大規模な外部プロテオーム資源を活かし、候補の頑健性(ぶれにくさ)を補強できたことを意味します。
注)本研究ではSomaScanTM 7K Assay(deCODE/Fenlandデータ)を用いた再現解析が行われています。
COI:開示すべき利益相反はありません。
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