血清プロテオームに基づく肝生検所見の推定指標の開発
Sanyal AJ et al. J Hepatol. 2023 Apr;78(4):693-703. doi: 10.1016/j.jhep.2022.11.029.

研究の背景と目的
NAFLD(Non-alcoholic Fatty Liver Disease:非アルコール性脂肪性肝疾患)では、重症度評価の基準として肝生検が用いられますが、侵襲性(体への負担)が大きく、採取部位や読み手によるばらつきも課題です。
そこで本研究は、血清中タンパク質を広く測ることで、「肝生検で見ている主要所見」を血液だけで推定できる“液体生検(liquid biopsy)”の指標を作り、診断と経時モニタリングに使えるかを検証しました。
研究方法
まず、血清中の多数タンパク質をSomaScan™ Assayで網羅的に測定し、その測定データから、肝生検で評価される所見(脂肪化、炎症、風船様変性、線維化)を推定する“スコア(確率)”を作りました。対象はNIDDK(米国国立糖尿病・消化器・腎疾患研究所)のNASH CRN(Nonalcoholic Steatohepatitis Clinical Research Network)に登録された、肝生検で診断されたNAFLD症例で、636人・2,852血清サンプルを用い、SomaScan™ Assayで5,220タンパク質を測定しました。
次に、肝生検所見を「臨床的に意味のある重症度」に2値化し、それぞれを当てる機械学習モデルを作成しました(学習用と2種類の検証用データで性能確認)。ここで作った4つのモデル(脂肪化・炎症・風船様変性・線維化)と、それらを組み合わせたat-risk NASHの確率スコアは、SomaScan™ Assayの測定値を“臨床的に読みやすいスコア”へ変換したものであり、本記事ではこれらをSomaSignal(SomaScan™ Assayデータから算出される疾患確率/スコア)として扱います。
さらに、治療でスコアが動くか(モニタリングできるか)を確かめるため、PIVENS試験(ピオグリタゾン/ビタミンE)とFLINT試験(オベチコール酸)で、治療中に繰り返し採血した血清(合計でPIVENS 1,333、FLINT 1,275サンプル)に同じモデル(SomaSignal)を適用し、プラセボとの差を解析しました。
結果
4つの“肝生検所見”モデルを作成
最終的に、脂肪化12種、炎症14種、風船様変性5種、線維化8種のタンパク質が選ばれ、重複を含めて合計37種のタンパク質で4モデルを構成しました。
診断性能(AUC)の目安
学習/検証(paired validation)でのAUCは、線維化0.92/0.85、脂肪化0.95/0.79、炎症0.83/0.72、風船様変性0.87/0.83でした。また、別の独立検証(hold-out)でもおおむね同程度の傾向が示されました(例:線維化AUC 0.83など)。
「at-risk NASH」も高精度に推定
4モデルの出力を掛け合わせたスコアで、at-risk NASH(NAS≧4かつ線維化stage≧2)を推定でき、AUCは学習0.93、検証0.84〜0.85でした。
治療による“変化”を追える可能性
PIVENSでは、プラセボに比べてピオグリタゾンやビタミンEで、脂肪化・炎症・風船様変性・線維化のモデルスコアが時間とともに有意に改善し、特に脂肪化/炎症/風船様変性は早い時点(週16)から差が出る傾向が示されました。
FLINTでは、線維化スコアは治療群で低下(改善方向)し、週24以降で差が見られました。一方で脂肪化スコアは、組織評価で脂肪化が下がっていてもモデル側の変化が小さい場面があり、薬剤や評価対象によって“捉えやすい変化/捉えにくい変化”があり得ることが示唆されました。
新規性の示唆
37種のうち、NAFLDとの関連が既に知られていたものに加え、これまでNAFLDとの関連が十分に報告されていないタンパク質も含まれると整理されています。
考察
本研究は、血清タンパク質の組み合わせで、肝生検の主要所見(脂肪化・炎症・風船様変性・線維化)やat-risk NASHを推定でき、さらに治療による変化も追える可能性を示しました。
一方、集団の偏り(主に白人)や、重症度分布の偏り(脂肪化が軽い人が少ない等)など限界もあり、今後の独立検証が重要です。
本研究では、SomaScan™ Assayを用いて血清中のタンパク質を5,220種まで一度に網羅測定し、その広い測定情報を土台に、肝生検で評価される所見(脂肪化・炎症・風船様変性・線維化)を推定するモデルを機械学習で構築しました。つまりSomaScan™ Assayは、限られた候補に絞り込む前段階で必要な「幅広い探索」と「モデル作成」を可能にする基盤です。一方、SomaSignalは、そのSomaScan™ Assayの測定結果から、選抜した少数のタンパク質(本研究では合計37種)を使って、線維化確率やat-risk NASH確率のような臨床で解釈しやすいスコアとして出力するアルゴリズム(解析モデル)を指します。したがってSomaScan™ Assayは「測る」、SomaSignalは「測定値をスコアとして読み解く」であり、両者は役割が異なる一方、SomaSignalはSomaScan™ Assayのデータをもとに作られる点で連携しています。
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