フレイル研究のバイオマーカー開発

Sanish Sathyan et al. A Frailty-Based Plasma Proteomic Signature Capturing Overall Health and Well-Being in Older Adults. Aging Cell 2025;24(9):e70144. doi: 10.1111/acel.70144. Epub 2025 Aug 4.

フレイルは加齢に伴う多面的な生理機能低下を特徴とし、転倒や入院、死亡といった不良転帰のリスクを高める老年期特有の症候群です。しかし、その複雑な病態のため血液ベースの頑健なバイオマーカーはこれまで確立されていません。本研究では、大規模プロテオーム解析技術である SomaScan®アッセイ を用いて血漿中の数千種類のタンパク質を測定し、フレイルを捉える25種類のタンパク質からなる「プロテオーム・フレイル指標(proteomic Frailty Index: pFI)」を構築することを目的としました。

研究は3つの独立した加齢コホートを用いて実施されました。LonGenity研究(n=880, 平均年齢75歳):アシュケナージ系ユダヤ人を中心とする高齢者集団。Atherosclerosis Risk in Communities(ARIC)研究(n=5195, 平均年齢76歳):米国4地域の大規模住民コホート。Baltimore Longitudinal Study of Aging(BLSA)(n=654, 平均年齢77歳):ワシントンDC地域を対象とする縦断研究。各コホートで保存血漿を用い、SomaScan v4.0/v4.1 により4,000~7,000種類以上のタンパク質を定量しました。

ステップ1(開発):LonGenity研究において、4265種類のタンパク質をスクリーニングし、フレイル指数(FI)と有意に関連する143種類を同定しました。その後、Elastic Net回帰により25種類を選抜し、pFIを構築しました。ステップ2(検証):ARIC(5,195名)とBLSA(654名)に適用し、従来のFIとの相関、身体的フレイルとの関連、死亡・認知症発症などの予測能を検証しました。

LonGenity研究:pFIはFIと中程度の相関(r=0.58)を示し、上位3分位群では下位群に比べ死亡リスクが4倍以上高いことが示されました。ARIC研究:pFIとFIの相関はr=0.61で、pFI高値群では全死亡リスクが有意に高く(HR=1.13)、また糖尿病・高血圧・心不全など慢性疾患との強い関連が確認されました。さらに7年間の追跡で認知症発症リスク上昇(HR=1.07)が認められました。BLSA研究:FIとの相関はr=0.45。死亡リスクや身体機能(握力・歩行速度低下)とも関連しました。

本研究は、SomaScanを用いた網羅的プロテオーム解析により、25種類のタンパク質からなる新しいフレイル指標pFIを開発し、複数の大規模独立コホートで妥当性を検証しました。pFIは従来のFIに匹敵する精度で全身的健康状態を反映し、死亡や認知症を含む加齢関連疾患リスクを予測できることが示されました。SomaScanの高感度・大規模測定技術は、フレイル研究における従来の制約を克服し、臨床応用可能なバイオマーカー開発に大きく貢献したといえます。